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【第15夜⑤ ~国王の資質~】

そこには小さな蛙がちょこんと座り、こちらを見て鳴いている。


「えっ?」私は訳が分からず、疑問を投げかけるように凱の顔を見ると、


「このページに書いてあるのは…、対象物を蛙に変える魔法…。つまり、さっきの魔導書は偽物だ。」


死刑執行を見に集まった民たちの動揺の声とため息が聞こえる。国王はそれをキョロキョロ見回して、


「貴様!ここにいる者たちを騙そうと…そのようなペテンを…、許さぬ!」怒りに満ち溢れた国王の顔はゆでだこのように紅潮し、その様子からも、王が黒であることを自ら暴露しているようなものだなと呆れ顔で凱は見つめると、


「そうですか…、それならば弁明の時間を設けましょう。国王になるためには、すべての魔法を習得していなければならなかったですよね?父上。では…、ここで極界魔法の中でも最高難度の魔法である攻撃魔法を私にかけてください。どうせ処刑されるはずだったこの命。もし国王がその魔法を習得しているのでしたら私を殺せるのですから、…王にとっては好都合ですよね?さあ、どうぞ!」凱は今までに見せたことのない不敵な笑みを浮かべ両腕を広げ、国王を挑発する。

 

王は、してやられたという顔で、

『おのれ、凱め…。なぜ私が極界魔法を習得していないことを知っているのだ…。私もクラウディスも解読が終わっていないことを知る者はいないはずなのに…。』王の心の声は、凱の魔法によって全ての民の脳内に響き渡り、この城内にいる者は一斉に国王に非難の声を浴びせる。


「なんだと!」

「いくら王とはいえ、これは許されぬことだ!」

「まさか、クラウディス様までも!」

「メルゼブルクはこの先どうなっていくんだ!」あちこちに響く民の声に凱は、追い打ちをかける。



「王!お聞きになりましたか?民の声を…。全魔法を習得したものが王になるのではなかったのか?自分たちが王と崇めてきた者に、私たちメルゼブルクの民は裏切られてきたのだと…。皆が申しております。

さあ…、この始末…どのようにされますか?習得されていないのであれば、心だけでなく、その口で国民に知らしめてください。私は今まで全ての民を騙してきたと…。今、王としての資質が問われております。」そう促すが、王は唇を噛んだまま、一向に応えようとしない。


 その国王のあまりの無責任さに、さらに国民の非難と怒りは増していく。一人一人の民の怒りは、彼らの魔力と融合し、その怒りの魔力が憎悪の渦となり、その負の念を帯びた魔力が王の魔力を低下させていく。


 その状況下に気が触れたのか、国王は炎に包まれ、今や単なる燃えカスとなった魔導書を、どうにか元に戻そうと慌てて様々な魔法で対処するが、7大極界魔法の3つしか習得できていない国王の魔法は、何の意味も為さなかった。そして私と凱は、魔封印第5の呪文により、私たちに敵意を持つ者全ての魔法を封印し、王の唱える魔法も全て闇に封印されたのだった。為す術の無い国王は、その場で呆然と立ち尽くし、周囲を衛兵に囲まれていた。私たちは王を自室に連れて行くよう衛兵に指示し、魔法が無効化された王には、もう抵抗する手段がないので安心するようにという事も併せて伝えた。


「終わったな、莉羽。」凱は笑顔で重ねていた私の手を握る。私は、

「うん。」と言って、凱の手にもう片方の手をのせて笑顔で返す。


 私たちは、魔力を失い呆然とする国王を始め、王宮の魔法士団たちの姿を見届けると、その場の収拾をつけるべきクラウディスに指示を仰ぐように伝え、凱の手から放たれた光の道に乗り、王宮をあとにした。


 その一部始終を塔の頂上から見ていた者がいた。黒ローブの男、そして騎士団長ロイ。

「これがバートラルの力か…。」ロイが口を開く。


「ふんっ。力に目覚めつつある。厄介だな。しかも偽物とはいえ魔導書すべてを焼き払うとは…。」黒ローブの男は、先ほどまでの状況を確認し、焦りを感じている。するとその後ろから女が現れ、


「そうね。あのバカ国王…、習得中に魔導書焼き払うってどういう事よ…。偽物だとしても魔導書無しではこれ以上の魔法の習得は望めないじゃない…。どうせあのバカの事だから、自分が習得できているところはそのまま残して、できなかったところだけ適当に書き換えたんでしょうね…。だから今まで気づかれずに済んでいた…。まあ、でも私に考えがあるわ…。ああ、それにしても、あの2人見てるとなんかむかつくのよね…。」そう言って、不機嫌全開でその場から姿を消す。


「今のは、嫉妬か?」黒ローブの男がロイに訊ねる。


「さあどうかな?女心は分からない。それより…、今日の戦いを見てあの2人の力が真の融合を果たしたら、どれだけの力が発動されるのか未知数だ…。主の計画を阻止される前に、始末する必要があるな……。」ロイは途中で言葉を濁す。


「確かに…。魔導書の解読まで果たしているとなると、こちらもそれなりの対応を迫られるだろう。とりあえず、あの女がどう出るか見てからだな…、俺たちが動くのは。まあさっきのが嫉妬だとしたら…、動くのは早いはずだ。」


黒ローブの男はそう笑いながら闇に消える。それに続いてロイも、辺りを見回してその場を後にする。





微妙な天秤の動きに男は呟く。


「均衡に動きが出てきたな…。しかし、力に目覚めても、まだまだ真相にはたどり着けんぞ、娘。さてはて…、次はどう出る?」

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