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【第15夜③ ~魔力解放~】


『今だ!』


 クラウディスが魔力を発動したと同時に、私は自らの魔力を解放させる。同時発動は魔力感知されにくく、しかも初動魔法力が高いほうが先に探知される。その為、凱の計画ではクラウディスの発動とほぼ同時に私の魔力を発動し、はじめは魔力解放をできるだけ低く、そして一気に上げるという高度なもので、体力と魔力の消耗がかなり激しいものだった。しかし、探知されてしまうとすぐさま魔封印されてしまう可能性があるので、この方法をとるしかなかった。


 徐々にクラウディスのアビリティ解放値が上がり、聖剣に力が注ぎ込まれる。それと同時に計画の第一段階を実行する。それは体温を一気にあげ、その熱で体が燃え尽きるその直前に、瞬間移動で処刑台の凱のもとに移動し、繋がれている魔法錠の解除、凱と私の周りに結界を張るという3つの魔法を同時進行で行う計画だ。


 体が燃えるように熱くなり、意識が遠のきそうになるのを何とかこらえながら、その時を待つ。クラウディスの魔力が限界に近づくのに合わせ、自分の魔力の解放もマックスまでもって行く。

クラウディスの目が金色に輝き、その体から出る魔力の帯が天まで昇ろうとするその瞬間、私はその3つを瞬く間にこなし、自ら張った結界の中で、衰弱しきった凱を抱きかかえて、回復魔法をマックス値まで上げ、凱に注ぎ込む。拘束されてから食事は勿論、水も与えられていなかった凱の体力がみるみるうちに回復していくのが見て取れる。


 うなだれていた凱がゆっくりと顔を上げ、

「莉羽…。やるなお前。」と、凱はゆっくりと起きあがり、私の頭を優しくポンポンとする。


私は照れながら、

「誰かさんが私に、やれって難題押し付けたんでしょうが…。」と目に涙を浮かべ、笑いながら凱の背中を軽く叩く。


すると目の前のクラウディスが、

「莉羽!お前、私という婚約者がありながら、裏切るというのか…。今ならまだ私のこの寛大な心でお前を許してやることができる。詫びて此方に来い。莉羽…。」身を震わせ、今にも爆発しそうな顔をさらに真っ赤にさせるクラウディス。


「クラウディス。私はそちらには行けない。無実の凱に濡れ衣を着せて処刑だなんて…。そこに正義はない。あなたたちはこの国の民を騙してまで、邪魔者を排除し、自分たちの欲望を満たそうとしている。全ての魔導書を奪ったのはあなたたちよね?民を、魔導書を奪って何をするつもりなの?その計画に凱の計り知れない能力が邪魔だから、それをただつぶしたいだけでしょ。この国の民の幸せなんて、これっぽっちも考えてない。国民の幸せを願えない国王は、その座から退くべき…。あなたたちこそ裁かれるべきだわ。」私は無能な親子に向けてではなく、むしろこの暴挙を王宮の人々全員に訴えるつもりで話す。なぜならこの処刑は、王が全国民に知らしめるようにと、視覚魔法を使って全国民の脳内に映像を流そうとしていたことを知っていたからだ。もしもの為に、王の間に盗聴器を仕掛けていた事が功を奏したが、これも凱の指示だった。


「何をでたらめばかり並べて。莉羽、お前もこの国への反逆罪で直ちに処刑してくれるわ!」そう言うと、クラウディスは聖剣に再び魔力を注ぎ込み、剣を振り下ろす。

その刹那、私の張った結界に亀裂が生まれ、凱の左腕から血が噴き出る。


「私の魔力の最大限の結界が、いとも簡単に…。」私が落胆していると、


「莉羽。大丈夫。ここまでは計画通りに来てる。これくらいの怪我は想定内だ。メモに無いけど思いついたから、次の段階に行くぞ。莉羽、シュバリエで父さんからもらった「宿世石」を出して。」


「えっ?」私は驚き、凱の顔を見る。凱は、にこっと笑って、


「大丈夫だから。そのポケットに入ってるだろ。」私は慌ててポケットに手を入れて確認すると…、


「あった。」凱は私の様子を見てにんまりすると、


「それを握って前に出して。」私は凱の言うとおりに「宿世石」を握って、その手を前に出すと、凱は自分の手をその上に置いて、


「さあ、始めよう!」そう言うと満面の笑みで私の顔を見て、


「大丈夫、俺がついている。目じゃない、体で覚えろ。」


「うっ、うん。」


 私はこれから始まる何かに全く見当もつかないけれど、凱の言葉は私を裏切ったことはないし、信じるしかない!と凱の目を見る。この状況ですら楽しんでいる少年のような凱の目に引き込まれる。私はこの余裕がどこから来るのか全く理解できなかったが、それを直後に知ることとなる。


「アビリティ解放。」凱が合図を出す。私と凱は、アビリティ解放値を同程度に保ちながら徐々に上げていき、7大魔法の1つ、防御魔法の最終形態を2人同時に繰り出す。結界の威力が弱まっても、この防御魔法が敵の攻撃を一切受け付けない。


「お前たち、いつの間に極界魔法を解読したんだ…。」クラウディスは舌打ちしながら、何度も、何度も…、彼が聖剣だと思いこんでいる剣に魔力を注いでは攻撃してくる。この聖剣がもし本物だったら、また状況は違っているのだろうが、ここは彼の勘違いに感謝すべきところであった。


「クラウディス。悪いがその攻撃、何も効かない。」全ての攻撃を撥ね退け、そう言い切った凱は、また別の魔法を唱え始め、結界の亀裂の修復と同時に、攻撃魔法を繰り出す。その攻撃魔法は低ランクだが、クラウディスの攻撃を邪魔するには事足りた。凱との魔力の違いを肌で感じたクラウディスは、全魔力を解放するために、しばし後退し、その間クラウディスを護るようにしながら、王宮直属の魔法士集団が表に出る。だが私と凱は、クラウディス以外に戦う気はさらさらなかったため、その攻撃を軽くかわすと次の計画を実行する。


「莉羽。次行くぞ。」


「了解!」


 その後、私の右手と凱の左手の手のひらを合わせ、極界攻撃魔法の解放を試みる。これも相乗魔法なのでお互いの魔力を合わせないと、2人ともその魔力により命を落とす可能性がある。そのため私たちは慎重に、お互いの息を合わせながら徐々に魔力を上げていく。


「莉羽。魔力解放が少し遅くなってる。大丈夫か?」私の魔力の上がり方が、ほんの少しだけ鈍くなってきたのを察知した凱は私を気遣う。


「ごめん。ちょっときつくなってきた…。」全意識と全神経を魔力に注いでいるため、体は動かしていないというのに息が上がる。ちょっと、とは言ったものの、実際はそんな軽いものではなかった。


「握る手を少し緩めて。力が入りすぎてる。魔力に集中と同時に「石」にも意識を向けて。そう。少しずつ…。無理はするな。」自分も相当きついはずなのに、微塵にもそれを見せない凱の優しさに、私も負けてはいられないと奮起する。


「ありがとう。でもなんで「石」の扱いを知って…。」と聞こうとすると、またにんまり笑って、


「集中…。」そう言って、前をまっすぐ見て、まるで別人のような眼差しで、クラウディスの動向をその目で追う。


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