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【第15夜① ~処刑の前に~】

 メルゼブルクでは国王とクラウディスが、凱の死刑執行に向けた手続きを行っている。


「凱の力をお前は把握しているか?」国王ハラールⅡ世はクラウディスに確認する。


「はい。前回報告した時より、先日の戦いで少し能力の解放値は上がっています。ただ…、まだ私の能力には及びません。」少し誇らしげに話すクラウディス。


「ふむ。しかし、親であるこの私から見ても、あやつの潜在能力はお前よりも高く見える。未だアビリティ解放が完全でなかったとしたら…。侮れぬぞ。」そう言い放つ国王の言葉に、プライドを傷つけられたクラウディスはむきになって、


「何をおっしゃっておられるのです。次期国王となる私の方が…。」それを制するように、


「今はお前のつまらぬプライドなど問題ではない。凱の能力に見合った殺し方を考えぬと、こちらがやられる。」悔しさで身を震わせながらクラウディスは、


「最上級魔封印を必ずや成功させてみます。」とだけ言い残し、その場を去ろうとすると、


「何?クラウディス、お前はまだ解読していないというのか?それでよくも次期国王と自らを名乗れるものだ…。何としてでも最上級魔封印を成功させよ。わかったな。」激高する王の前に、唇を強く噛みしめ、

「はっ。」と一言だけ答えることしかできないクラウディスは、そのまま部屋を後にする。


「自分だって国民を欺いて、7つの極界魔法のうち、3つしかマスターしないで国王になったっていうのに…。俺のほうが4つマスターしているんだから、まだマシだろうが…、くそじじいめ…。」ぶつぶつ言いながら、自分の部屋に戻るクラウディス。


※※※ 


 死刑執行は明日正午。それに向けた準備が王宮内で着々と進む。

私は自分の部屋にいることを余儀なくされ、部屋から一歩も出ることが出来ない。凱に会いに行きたくても強力な魔法錠がかけられ、外には複数の衛兵がいる。事実上の監禁である。


「凱…。」


助けたくても何もできない自分。いくら前回の戦いで、アビリティ解放度が上がったとはいえ、まだ学ぶべきものはたくさんある。でもここで私がやらねばならないこと…、私の使命は、今現在身についているこの能力を確実なものにすること。そして明日、私はその力を以って、凱を救う。それだけだ。


 私は魔王省の魔導書の写しを、以前凱から渡されていたことを思い出し、自室の隠し部屋に入る。中は薄暗く、ようやく文字が見えるくらいの明るさはあるが、はっきりとは見えない。ゆっくり見ていくと、そこに置かれている何百冊とある本の並びが普段と違うことに気づく。


『あれ?いつもと違う?っていうより、どこの段からか並びは元のままでずれてる?そうか、場所が少しずれてるんだ。ということは…、何冊か多くなってる?』


私はいつものように本を見ていき、途中でその手を止める。


『え?これは…?』私が手にした本は、凱が盗んだと疑いをかけられているメルゼブルク王室保管の本物の魔導書だった。


『なぜこれがここに?』私はそのうちの一冊を手に取り開く。するとその中から紙切れが出てくる。そこには、


『もしもの事を考え魔導書を複製し、あたかも本物のように見える魔法を施し、それを自分の部屋に置いた。今お前が手にしているものが本物の魔導書だ。このメモを読んでいるとき、おそらく俺はお前の近くにはいないだろう。その時のため、この手順で事を進めてくれ。俺は大丈夫だ。必ずお前のもとに帰る。』


それは紛れもなく凱の筆跡。私は心を落ち着けて読み進めていく。


「凱…。ここまで考えていたなんて…。」凱は、王位継承をめぐり、クラウディスが自分を貶めるために、そこやかしこに罠を仕掛けていることを把握していた。この魔導書の件は、逆に凱が自分から仕掛けたものであることがメモの内容から分かり、少しだけ安心する。

 

私はその後、そこに書かれた通り、段階を経て事を慎重に進めていく。決して悟られてはならない。魔法をここで使えば、魔法痕が感知され、すぐにばれてしまう。凱の計画は綿密で抜かりがない。ここまで先を見越していたことに驚く。


 でも幼馴染である私には、それはある意味予測できたことだった。なぜなら、凱は小さいころから成績優秀で、周りの状況を把握するのに長けていた。どんな状況でも先を見越した行動をとることが出来、抜かりはなかった。しかも常に冷静で運動神経も抜群、しかも顔良し、スタイル良しときたら、学校中の女子が騒ぐのも無理はなかった。ただ、そんなモテモテ状態でも、女子には見向きもせず、常にクールを貫いていた。それが余計に凱の株をあげていたのは言うまでもない。


 凱の完璧ともいえる指示のおかげで、私は1人で行動しなくてはならない不安をだいぶ払拭できていた。


「すごい…。凱。ありがとう。」私を思い、このメモ書きを書いてくれた凱の気持ちを思うと、涙が溢れそうになるが、今はとにかく、明日までに自分にできることをただひたすら進めていくしかないと、結局一睡もせず、その魔導書と向き合った。


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