【第14夜④ ~謎の女と旅立ち~】
【前回より】
「凱…、莉羽の力は…。」
「ああ、わかっている、父さん。」
「お前は知っていたのか?」
「…。」
「そうか…、命がけの戦いになるな…。」
「ああ。」
「莉羽を…、そして世界を頼む。凱。」
「ああ、必ず…。」
そんなやり取りが2人の間であったことなど知らずに寝ている私の隣で、凱は不思議な夢を見る。
『ここはどこだ?』凱があたりを見回していると、女性の心の叫び声が聞こえる。その声の方に近づくと…、
この光景はハルトムートの姉が連れ去られたときの状況だった。
【 剣を持った黒のローブの男がハルトムートの姉を抱え、今まさに消えようとしている。
『待て!』
凱が大声をあげても聞こえていない。ここでは凱の声は届かなかった。目の前で起きていることを自分の手でどうにもできない、この歯がゆさにジレンマを感じる凱。
『くそ。このままでは…。ハルトムートの姉さんが…。』
凱が足掻いている間に、姉は黒のローブの男とさらにもう1人の女とともに消える。ハルトムートの話には出てこなかった女。彼からはこの女のいる場所は死角になっていて、おそらく気づかなかったのだろう。凱はその女に見覚えがあった。そして確信する。この女も黒幕の1人…。もしくは本当の黒幕ではないかと…。 】
目覚めた時、あまりの夢見の悪さから、すっきりしない様子の凱。
「どうしたの?凱。」私は少し気になって声をかける。
「いや、何でもない。父さんと母さんに挨拶をして、日の出前には出るぞ。」凱はそう言うと手早く支度を整える。すると、階段を上がってくる両親の足音が聞こえ、
「もう出るんだな?」父はそう言って寂しそうな表情で私を見ると、強く抱きしめる。
「うん。お父さん…、元気でね。」私の言葉に母がしくしくと泣き始める。そんな母を凱は抱きしめ、
「母さん。俺たちは大丈夫だから、心配しないで。必ず帰ってくるから。俺たちに非はない。万が一、捕まることがあっても無実を証明して見せる。そしてこの世界で起きている不可解な事件も俺たちの手で解決して見せる。だから…。」そう語った凱の目も潤んでいる。
「ああ、母さんの事は父さんが守る。だから、父さんと母さんの事も心配するな。」そのやり取りに涙が止まらない私が、今度は父に強く抱きつくと、
「おいおい、もう泣くな、莉羽。お前も騎士団の一員なんだろ?大丈夫だから。」そう言って頭を撫でる。
「お前たちは、私と母さんの誇りだ。こんなにも優しく、そして強く…。お前たちの未来に何があろうと父さんと母さんはずっと見守っている。だから安心して行きなさい。凱、くれぐれも莉羽を…、頼むぞ。」父は目に涙を浮かべ、凱の手を強く握る。
「はい、父さん。莉羽のことは俺が絶対に守るから…。母さんの事…、よろしく。じゃあ、俺たち行きます。」凱は晴れ晴れとした顔で2人を見つめ、決意を新たに伝える。
名残惜しさは募るばかりだが、私と凱は家を出る。そして、この村が一望できる小高い丘の上まで上り、ここに上るのもこれが最期なのかもしれないと覚悟し、まだ明けぬ朝を待たずに旅立つ。




