【第14夜③ ~宿世石と眞守り人『バートラル』】
【前回より】
「うちの玄関前、まだ生まれたばかりのあなたのすぐ横に、この〈石〉が置いてあったの。〈石〉はその箱に入っていたんだけど、私が開けようとすると、そこから光が漏れ出したの。びっくりしてよく見たら〈石〉の中央部分が光り輝いていた。きっとこれは特別な力を持つ〈石〉だとその時、直感したわ。でも〈石〉の力は人を幸せにもするし、不幸をももたらすことがあることを知っていたから…。あなたが成長するまで、そのまま閉まっておこうと父さんと決めていたの。
それがね、あなたが3歳になったころ、凱と2人で納戸に入って、その〈石〉を見つけてしまったの。その〈石〉はまだあの時と同じように光っていたわ。不安に思ってその〈石〉を預かろうとしたら、あなたの手がその〈石〉に触れて…。」言葉に詰まる母。
「どうなったの?」私は嫌な予感がして尋ねる。
「2階半分が吹き飛んだわ…。」
「えっ?」私は驚きのあまり声を失った。
「そう。お前が手に取った瞬間だ。手の中から強烈な光が放たれて…、一瞬だった。」父は私の手を握り、優しい目で私を見る。
「莉羽、お前がこの石の適合者ってことだ…。」
「そんな…。」私は鼓動が徐々に早くなるのを感じる。自分の力が人並外れていることは、ある程度理解してはいた。しかし、幼いながらもここまでの力を持っていたとは…。ということは、成長した今はさらに強い力を?私は驚きのあまり声を出すことができない。すると、
「莉羽。その力を手にすることで不安に思うことはない。その力を正しく行使することによって救われる命がどれほどあるか…。騎士団であるお前の使命を考えた時に出てくる答えは…、1つのはずだ。…」父は私のもう片方の手を握って言う。
「本当はあなたがお嫁に行くときにこれを渡そうと思っていたんだけど…。魔の山に行く前にこの〈石〉の力を把握できれば力になるかと…。」父はそう言って〈石〉を手に取る。手に乗せながら、何かを呟くと〈石〉の光が少し収まり、
「ここに手を置いてごらん。」と、父の掌の〈石〉に私は恐る恐る手を乗せる。
「大丈夫、今、父さんの力で〈石〉の力を弱めているから…。凱、莉羽の手の上に、お前も手を乗せて。」それに従い凱も手を乗せる。
「目を閉じて、心を無にして〈石〉の声を聞いて、〈石〉の力を感じる。」私は言われたように気持ちを〈石〉に集中する。すると〈石〉の光が私たちを包み、そしてその光が私の中に入っていくのを感じる。
「今のは何?」私は驚いて尋ねる。
「今まで黙っていたが父さんもある〈石〉の適合者だ。莉羽よりも力は弱いけどな。言うまいかどうか迷ったが…。これから話すことは、この家族4人以外に口外禁止だ。
莉羽のこの〈石〉との接触を見て、これが莉羽の「宿世石」だとすぐに分かった。そしてその〈石〉に共鳴するかのように、凱の目がこの〈石〉と同じ赤く光ったのを見て、凱が莉羽とこの〈石〉の縁者であることも…。でも今、新たな事を確信した。凱は莉羽のバートラルだ。莉羽は分からなかったかもしれないけど、この〈石〉の光が凱の体にも入っていくのを感じただろう?凱?」
「ああ。」凱は答える。
「父さん、ちょっと待って。父さんは〈石〉の力を見れるって事なの?」
「ああ。見れるし、その〈石〉の力を抑えることができる。〈石〉の力が強すぎる場合、適合者自体を滅ぼしかねないから…。まあ、つまりは〈石〉の鑑定人であり、制御者つまりハンドラーだな。〈石〉の力を見て、その人に適合するようにレベルを合わせる。そのあとは適合者が持ち、鍛錬することでレベルは上がっていくから、最初だけ面倒を見る感じかな。だが、残念ながら…、全ての〈石〉を見ることができないんだ。」父は頭を掻きながら言う。
「お父さんってすごい力を持っていたんだね…。すごくびっくりしちゃった。ところで…、『宿世石』って?『バートラル』って?」私が続けざまに聞く様子に笑いながら父は答える。
「『宿世石』はな、石の完全なる適合者が持つ場合のみ使われる〈石〉の呼び方のこと。〈石〉との連携が1%から99%まで可能な人は、その〈石〉の適合者と呼ばれて、その幅は広い。でも、100%該当する人っていうのは、〈石〉に対して1人しかいないんだけど、その唯一の人が『宿世石』の適合者と呼ばれる。だから、この石は莉羽の『宿世石』ってこと。わかる?」
「この〈石〉の能力と完全にリンクできるのは私だけってこと?」
「そう。この石と莉羽は運命共同体ってことだよ。」
「じゃあ、バートラルって?」私は続ける。
「簡単に言うと眞守り人。何があっても、どんな状況でも、必ず莉羽のことを守ることを宿命としている人の事。だから、莉羽のことは凱が守ってくれる。なっ。」父は凱の顔を見る。
「ああ。」凱は覚悟を持った顔で答える。
「母さん、長年の願いが現実になったな。父さんと母さんは、凱が莉羽をずっと守ってくれればと、心から思っていた。それがまさか…、現実になるなんて、なぁ。母さん。」父が母の肩を抱き話しかける。
「ええ。莉羽はこの家に来るべくしてきた。私たちのもと、そして凱のもとに引き寄せられたのね。」母は両手で顔を抑え、感極まった様子で答える。
「凱。莉羽のことはお前に任せたぞ。必ず生きてここに戻ってこい。わかったな。」
「ああ、約束するよ。」大きくうなずく凱。
その日の深夜、父と母は深夜にも関わらず、私たちに精いっぱいのご馳走を用意してくれた。久々の家族団らんの時。この後待ち受ける過酷な戦いを、今この瞬間だけは考えまいとの思いが、みんなの心にあった。
大好きな家族、この村、この国を守るため、私は心を新たに、明日に備えて布団に入る。その後、凱は父に呼ばれ、何かしら話をしていたらしいが、疲労が極限に達していた私は、そのまま眠りについていた。
「凱…、莉羽の力は…。」
「ああ、わかっている、父さん。」
「お前は知っていたのか?」
「…。」
「そうか…、命がけの戦いになるな…。」
「ああ。」
「莉羽を…、そして世界を頼む。凱。」
「ああ、必ず…。」




