【第14夜① ~騎士団解散!?~】
シュバリエでは、前騎士団長の失踪、マグヌス率いる特殊部隊への襲撃、騎士団長一家殺害事件など、騎士団絡みの事件が立て続けに起こっていることから、国民の騎士団に対する不安が増していた。また、民の多くが、国内で大量拉致事件が横行し、他人事ではなくなっている現状で、騎士団に自分たちが守ってもらえるのかとの不安も大きくなり、終いには、拉致事件は騎士団の仕業なのでは?そして騎士団長の失踪も騎士団が一枚かんでいるのでは、という噂が流れる始末になってしまっていた。
私たちは、情報の広まりがあまりに早い事、また民が知るはずもない事件の内容も王都を中心に広まっていることから、誰かが意図的に噂を流しているのではと疑念を抱いていた。
「どういうことだ。どこに行っても俺たちの黒い噂ばかりじゃないか…。仕事が邪魔されたり、罵倒を浴びせられたり…。これじゃ動きようがない…。」フィンは、この状況の打開策を何一つ見いだせないことに苛立っている。
「各地方の遠征組の編成も、その噂が原因でうまく進まなかった。どこも同じような状況だ…。」地方に置かれている騎士団の部隊編成と情報収集から帰ってきたハルトムートは報告する。
「下手するとこの国は無法地帯になるぞ…。騎士団の存在が治安維持にどれだけ貢献しているかを忘れ、追究するなど言語道断だ。国王はどのようにお考えなのか…。」常に温厚で有名なマグヌスが珍しく怒りをあらわにしている。一方のフィンは肩を落とし窓の外を見ている。すると団員が慌ててこちらに向かってくるのが見える。
「ん?何か報告か?」フィンが机に戻ると、ノックとほぼ同時にドアが開き、
「たっ、大変です。国王陛下が…。」
「陛下がどうした?」ハルトムートが聞く。
「陛下が…、騎士団の解散を公に命じました。」皆、一斉に驚く。
「なっ、何?どういう事だ?」フィンは理解できずに聞き返す。
「そっ、それと、ここにいらっしゃる皆様の拘束も…。ここにもうすぐ憲兵が…。」
「なんだと?私たちを拘束?なぜ?」フィンは顔を真っ赤にして怒鳴る。
「騎士団長殺害の罪ということです。」
「ふざけないで!何の証拠があるっていうの?」今回ばかりはアラベルも声を荒らげる。
「国王もどうかしている!」モーデンはこの状況に為す術なしと覚悟したのか、非礼覚悟で怒鳴る。
「皆さん、待ってください!ここで話していても拉致が明かない。ここにいたら私たち全員捕まってしまう…。ここはひとまず逃げないと…。」私は下っ端ながらに口をはさむ。
「そっ、そうだな…。そうだ、落ち着こう。とりあえず…。」思いもしない事態に動揺を隠せないフィンだったが、この先のことを冷静に考えなければと一呼吸おいて、
「非常時の行動計画に沿ってこれからみんな動いてくれ、パーティーとポイント伝達については覚えてるよな?」フィンの問いに全員頷く。
「ポイントは追って連絡する。それまでみんな無事でいろよ!必ずポイントで会おう!…解散!」
フィンが解散を告げるや否や、全員がその場から、非常時行動計画に則って、それぞれの目的地に向けて発つ。
私は凱とのパーティー、フィンはアラベルと、ハルトムートはモーデンとそれぞれに分かれる。ポイントは、フィンが状況に応じて設定するため、指令が来るまで今の時点ではどこか分からない。
普段、騎士団に属している国王直属の王兵たちは、緊急時には国王の勅令により騎士団から独立し、独自に動くことが可能になる。今現在、私たちを追っているのがその王兵、国王翼兵団だ。
私たちは彼らの追跡から逃れ、その日まで生き延びなければならない。今まで追う側だった私たちは、今を以て、追われる側に立場を変える。その新たな緊張に戸惑いながらも、機敏に動く騎士団幹部たち。私たちが発った3分後に、翼兵団が詰め所を取り囲んだが、その時すでにその周辺には私たちの姿はなかった。
非常時行動計画に沿って、私と凱は王都から、方角的に言うと北東方面の山中を、日没から日の出までの間の、わずかな時間移動していた。というのも、この時期は特に日没が20時とかなり遅い。私たち騎士団幹部の風貌が描かれた書面が、シュバリエ内の町や村のいたるところに掲示されているため、日が出ている時間帯は全く動くことが出来ない。特に通報者には報奨金が支払われるとの事で、金目当ての流浪人を始め、多くの猛者たちが私たちの行方を追ってくる。今やもう信じられるのは自分たちだけだった。
疲労は逃亡が始まってから4日で極限に達していた。昼に睡眠をとり、夜行動する生活は想像以上に私の体力を奪っていく。睡眠をとるとはいえ、仮眠程度で本格的に眠りにつくことはほぼ不可能。その為、通常なら2日で着くはずの地でも大幅に遅れ、3日を要し、3日で着くと考えていた私たちの村まで、4日半経った今でもまだ到着できていない。
しかも精神的疲労も大きかった。見つかったら即、王都に連行され、監禁、最悪は処刑が待っている。今まで騎士団見習いとはいえ、騎士団の仲間とその役割を果たし、感謝される立場にいた。しかし今は命を狙われるまでになってしまったのだ…。
「莉羽、大丈夫か?」凱が話しかける。
「うん…。何とかね…。でも…、私たちこれからどうなるんだろう…。こんな事態になるなんて思ってもみなかった。」疲労が強く、話す声にも覇気がない。
「そうだな…。でもまだ希望はある。それを信じて進むしかない。それにしても…、お前、足が上がらなくなってきてるな…。」と言うと、何も言わず私に肩を貸してくれる凱。
「ごめん。ありがとう…、凱。」私は凱に寄りかかりながら、なんとかを足を動かす。
「もう少しで俺たちの村だ。」
「ほんとだ!あの森をぬけたら…。」
「ああ。もうひと踏ん張りだ。」
「うん。」精神的にも肉体的にも限界を迎えようとしている中、唯一の救いは凱がそばにいる事、ただそれだけだった。