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【第12夜② ~神のお告げ~】

前回より


「国宝級の存在のお前がどうにかなったら、この国は不安と混乱とで覆いつくされるだろう。それを何としてでも阻止しないと…。その為にお前には一役演じてもらう。」凱は口角を少し上げてにやりと笑う。


「演じる?って何?」私が凱の意図が全く見えずに不安げな顔で聞くと、凱はその後の計画を、事細かに私に話した。


 「まず、お前は夢の中で「神のお告げ」を受けたと話す。この国でお前が強大な力を持っていることは、周知の事実だ。そんなお前が受けた「神のお告げ」はこの国の民にとって、絶大な影響力を持つはず。それを見越して彼らに、これから起こるであろう脅威に備えるよう注意喚起をする。これが目的。それでその前提として、彼らにこの星域の状況を話す必要がある。


 世界にはこの星だけではなく、複数の星が存在していること、そして、それぞれの星で最も大切にされている「石」、「魔導書」が何者かによって奪われる事件が起きていることを話す。神は、このファータでも大切なもの、つまり「多種多様な能力を持った人間」が奪われようとしていると告げている。これを話すことによって民衆に自衛の意識を持たせ、被害を最小限に抑えるようにする。


 この話は特殊な力を持っているお前だからこそ信じてもらえる話だから、話し方に注意しなくちゃいけない。わかるか?」


「うん。そうだね…。で、これはどのタイミングで言えばいいの?」


「10日後に行われる結婚式だ。民衆はこの話を聞いて、おそらく絶望すら感じるだろう。ここでお前の熱意を込めたしゃべりが物をいう。不安に満ちた国民の意識を、強大かつ特異な能力を持つお前と、それに勝るとも劣らない力を持つ皇子との結婚で、この国をその脅威から守ると民の前で誓うんだ。


 民は、お前の存在がこの星にどれだけ必要で、自分たちがいかに守られているかを知っている。皇子も然りだ。その2人が結ばれることで、民はこの上ない安心を得るだろう。だが、自己防衛の必要性も話す。自分たちの能力で自分たちを守ろうとすることが、敵にとって脅威であること。自己防衛意識を高め、さらにお前たちの結婚で安心感も得られれば、この星は1つになる。強大な力を持つお前と皇子のもと、見えない敵からこの星を守ろうと。


 黒いローブの男や、魔法書、石の盗難事件、拉致事件の首謀者がどんな相手であれ、俺たちの力があれば必ず守れる。」凱は確信を持った目で熱く話す。


「どうしたらいいかは分かったけれど、私たちだけの力で敵を倒せるって…、私、まだ完全に力が解放されていないから自信がない…。」私は未知の敵を相手にしても、勝利しか答えのない凱の思いに驚かされ、そして同時に不安を感じる。


「俺がいるからな…。約束しただろ。必ず守るって。」ほほ笑みながら言う凱。


「どんな時も…か…。凱の自信はすごいね。」凱の揺るがない自信に、私は少し表情が緩んで、


「ここでの話の進め方はわかった。タイミングを見て王と皇子に話してみる。」と前向きに考えられるようになる。


「ああ。自信を持って、堂々と!」


「うん。分かってる。ところで…、ここまで話してきてなんだけど…、頭では理解はできた。でも心がまだ…整理つかないから、話すことで自分に言い聞かせるね。ちょっと、聞いてて。」凱は唐突な私の物言いに、少し動揺して、


「ああ…、良いけど。どうした?」凱が聞く。


「うん…。やっぱり、結婚って、女の子には、すっごく大きいことで…。じゃあ、国の為に、結婚するねって、簡単なものじゃないから…、正直まだ整理がついていないんだ。だけど、もういい加減、ちゃんとしなくちゃいけないのも分かってるし…。だから、言うね。


私、皇子と結婚するね。そしてこの星を守っていくから…。」私はうつむきながら、でも強い意思を持って話す。


「…ああ。感情は追いついてないとは思う。それは当然のことだ…。いろいろ偉そうに言って悪いと思いながら…。俺も思う所はある…。でも…。」


『でも?』私は心の中でのみ尋ねる。ここまで話してこれ以上は愚問だなと…、その時の私はそう思ってしまった。そして、少しおどけたように、


「いやあ、一応…。私たち、小さいころから一緒に過ごしてきた幼馴染でしょ?お嫁にいく娘?みたいな気分なんだ…。」今にも涙が溢れそうな気持ちを何とか抑えながら、私は精一杯の笑顔で、強がって見せる。


「あっ、ああ。」凱はそんな私の表情を見て、心なしか悲し気に困惑しているように見える。


「私、姫だし、時期王妃だし。もうわがままな事は言わない。だから、見ててね。この星の全ての人のため、そして自分自身のために歩む私を。」ここまで話す間、何度も涙がこぼれそうになっていた私は、窓からの景色を見るふりをして、何とか涙をせき止めていた。そんな私の背中を見ながら、


「ああ、言われなくても…、ずっと見てるよ。」凱は優しく話す。


「ふふふ。さて、じゃあ…、皇子のところにいくね。」私は凱の顔を見ずに部屋を出ようとする。すると、


「ああ。…待って…。」凱は私の手を引っ張り、振り向かせる。私は顔を合わせることが出来ず、うつむくが、凱は私の頬に両手を当てて、強制的に見つめ合わされる。こらえ切れず涙が零れ落ちる。その涙にうつむく凱。そして2人に沈黙が流れる。


「何すんのよ…。気持ちがどうにもならなくて、辛くて、苦しくて、痛くて…、でもそんな中でも決めたの。この国のために結婚するって、もう…、諦めようって。それなのに、何で引きとめるの。もう中途半端な優しさなんて見せないでよ…。もうこれ以上、私を苦しめないで…。」我慢の限界だった。


 私は凱の前でもしっかり立っていられるように、何とか気持ちを奮い立たせてきた。それなのに…凱のこの行動が、今にも壊れそうな心に追い打ちをかける。そしてその心が深い闇に取り込まれそうになるのを感じながら気を失う。


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