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【第11夜② ~星空の下で~】

 その夜、凱と私は連日に渡る捜索のため、休暇を取るようフィンから言い渡され、王都から少し離れた父の弟の住む村へ馬を走らせていた。その村は温泉地としても有名で、任務の後は必ずこの村を訪れ叔父夫婦の営む宿で休暇を過ごしている。


 もうすぐシュバリエにも冬が来る。吐く息も白くなって、夜空は澄み切っている。この時期見える星々は、空気の透明度からより輝きを増し、私たち2人を明るく照らす。


「莉羽。少し休もう。アリとルクもずっと走らせてるし。」私たちは王都から2時間、休むことなくここまで走らせてしまった2頭を休ませることにする。私も凱もここ数日の悲惨な出来事、不可解な問題に直面し、休むことさえ忘れていた。


「うん。じゃあ、あの高台で休もう。」私たちは星空がより美しく見える高台を目指す。

馬から降り、少し歩いた高台から見える星空は、想像以上に私たちを魅了した。輝く無数の星々は、私たちが抱える底知れぬ不安を、この一刻だけでも忘れさせてくれた。


「シュバリエの星空ってこんなに綺麗だった?」私は満点の星空に両手を広げて凱に話しかける。


「ほんとに綺麗だな…。ここ最近俺たちには、いろんなことがありすぎて…、星をゆっくり見るなんて時間なかったから…、余計にそう見えるんだろうな。」凱はそう言って草むらに寝転ぶ。


「そうだね…。ほんとにいろんなことがあって…。頭の中、整理がつかない…。」私も凱と同じように寝転び、今にも降ってきそうなこの美しい星々を目に焼き付ける。


「この世界はどうなっていくんだろう…。」私が無意識に呟くと、流れ星が辺りを明るく照らしながら、西の空に向かって進んでいく。その瞬く閃光の美しさに目を奪われながら、私は世界中の平和をその流れ星に願う。


「それにしても…、この星空、ほんとに圧巻だな。」凱も思わず声を出す。


「こんな大きな流れ星、アースフィアでは見たことないもんね。」


「ああ。」しばらく無言で同じ時を過ごす。煌めく無数の星に、傷ついた心が癒される。


 考えてみると、凱が言った通り、ここ最近こんな風にゆっくり星を見上げる時間も、休む時間もなかった。張り詰めた緊張の糸を緩める時間が私たちには必要だった。

 朝、目覚めて、その日に見た夢が、現実だったかと思えるほど鮮明に覚えているようになってから、私と凱は夢の中を奔走してきた。その星のため、人々のため、自分たちのために。その間に失恋という大きな痛手を負い、心が折れかかっている中にあっても、毎日起こる衝撃的な出来事に、何とか気持ち保ち続けて走っている。


 私はこの素晴らしい星空の下、心の緊張の糸が少しずつ緩んでいくのを感じる。今だけは、何も考えず心を休めよう。私を悩ませる全てのものから解放されて…。だからもう、私は凱を問い詰めるのはやめた。今の今だけは解放されたい。そう願う私は、いつの間にか無意識に涙を流していた。凱はそんな私の様子を横目でちらっと見て…、見ぬふりをしてくれた。いつもならすぐに私に声をかける凱だが、この状況に、今の私には心の整理をつける時間を…と、配慮してくれたのだと感じる。


 どれほど涙を流しただろうか…、気付くとだいぶ星座も移動しているようだった。私は深呼吸をして、触れるのに躊躇していた、拭えない不安について話し始める。ロイ団長の件だ。


「ロイ団長が完全に黒だったとしたら…、ここのみんなはどうなっちゃうだろう…。それを想像したら、胸が苦しい…。」私は自分の胸に手を当てる。


「そうだな…。シュバリエの仲間はロイ団長の事を心から尊敬し、絶対的な信頼を寄せている。そんな人がまさか裏切っているなんて知ったら…。」


「ほんとに…。証拠はないからこんな事、話したくないけど、完全にそれを否定できるわけではないし…。」


「みんなの前でお前が言ったように、今は先に進むしかない。この先俺たちができるのは、ロイ団長の無実を…晴らせるのであれば晴らすことだ。その為の魔の山の調査だと思っている。」


「そうだね。あれはメルゼブルクの話だし、ここでは無関係だと信じたい。」


「ああ。魔の山と前騎士団長とロイの関係性。そして闇に消えた女の事も、ここで解明できるかもしれない。団長不在で騎士団の士気が下がっているのは間違いないが、ここでフィン副団長に頑張ってもらわないと…。俺たちも…、だな。」


「うん。いろんなことが山積みで、これからどうなっていくか不安だけど、私たちがやらなくちゃね…。ロイ団長の疑惑も、私たちしか知らないこともあるし…、何とか解明しないとね。」


「ああ。」そう言って凱は、また星を見上げる。


「なあ、莉羽。お前は…、お前が信じるように進んでいいから。」まっすぐ星を見ながら話す凱。その言葉の意味を考えながら、私は凱の横顔をじっと見て、


「うん。何をしたらいいかわからないのが本音だけどね。関わったすべての人を助けたい。その為にちゃんと支えてよ、凱。」ニコッと笑う。


「お前を守るのが俺の使命だから…。」凱はそう言って、私の頭に手を置いてポンポンとする。久々のこの感じに懐かしさと心がじんわり暖かくなるのを感じる。


「使命って、凱はいっつも大げさなんだから。」


以前と変わらぬやり取りをして笑いながらも、その言葉に聞き覚えがあるように感じるが、その意味を2日後に知ることになるとはこの時考えもしなかった。



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