確固たる思い~最愛の家族を守るため~⑥
「どうしたの?大丈夫?」
年齢は私より少し上程の見知らぬ男が発した至極ありきたりな言葉が、廃人のようになっていた私の心の奥深くに沁みていった。
私にとってはそんな普通の言葉さえ、彼が私をとても大切に思ってくれているように思えたのだ。
その後のやり取りで、私はその男の厚意で彼の家にお世話になる事になり、それからいろんなことを話した。
私の過去、そして今の状況を…。
彼は親身になって聞いてくれた。
心が落ち着くまでは学校にも連絡は出来ないし、このまま家でゆっくり過ごしたらいいと彼は優しい眼差しで提案してくれ、その瞳に嘘がないと感じた私はそうさせてもらうことにした。
※※※
彼の家にお世話になってから1か月が経とうとしていたころには、私は彼を好きになっていた。彼の優しさ、包容力にこのままずっとここに居たいと思った。
しかしこの1か月、毎日一緒にいても彼は一切私に手を出すことも、そんな素振りさえも見せなかった。確かに私はまだ幼い。でも、15歳といえば、他国においては婚姻を認められる年齢と聞いたこともある。
しかも年頃の男女が1つ屋根の下で生活している状況で、そういう事が起きても全く不思議ではないはずなのに…。
でもきっとそれが彼の誠実さであり、彼を好きになる要因でもあったのだと自分に言い聞かせ、少し寂しい気を持ちながらも2人きりの生活を続けていた。
そんな中、私がもう学校に通うような普通の生活を諦め、仕事を探しに行くと1日家を空けた日があった。彼は、私が就活を始めると言った時から、就活に必要な知識、面接の仕方などひと通り教えてくれ、私はその1つ1つをしっかりこなして、疲れ果てて家に帰ると…、
部屋は、もぬけの殻だった。
私は部屋を出て部屋番号を確かめる。
間違っていない。
私は騙されたのだった…。
私が家から持ってきたバッグと通帳、印鑑も全て消えていた。
私は、私が持っていた金目のものと共に、また心を失ったのだった…。
私は再び家族の次に、愛する人も失い、そして無一文になった。
その上、いつの間にか彼の借金数千万円の保証人にもなっていた。
絶望の上に新たな絶望が重なっていく。
私は万が一の為に肌身離さず付けていた、父親からもらったあのネックレスを売り払う。だがそれでもなお、残債が払いきれないほど背負わされる状況になっていた。
それからの生活は、思い出すのも吐き気がする。
頑なに純潔を守ってきた体を売り、日々残債を減らす毎日。
まるで機械のように、感情を押し殺し、日々見知らぬ男の快楽にわが身を捧げる。
そして帰宅後トイレで吐き続けるのだ。自分の穢れた体をこの上なく嫌悪し、獣のように私を弄び、私の体で快楽を得る男どもの顔を思い出すと吐き気が止まらなくなる。
これも全て10歳のころからのお金への執着、過度な妬み、そして両親への感謝の気持ちを忘れてしまった罪の代償だと…。そう嘆きながら便器に顔をうずめる。
ある時元両親が言っていた言葉を思い出す。
【人を大切に出来ない人は、自分も大切にされない】
その時は適当に聞いていた言葉。でも今考えると、まさしくその意識が私には欠如していたのだ。それが私の絶望の始まり。
私はあんなにも元両親に大切にされて生きてきた。自分たちの事よりもまず子供を第一にと、常に私と妹の事を考えてくれた元両親。
それがいつしか当たり前になり、さらなる欲が溢れてくる。
その欲の深さは人の心を奪い、人を貶めたり、人を蹴落としたりすることに悦びを感じるようにさせるのだ。
【私より幸せそうな人は、地の底に落ちればいい。私の上を行こうとするものは全て不幸になればいいと…】
私は便器を見つめながら、過去の過ちに気付き、改心して生活を改めたいと思ったが、のしかかる借金の大きさにこの環境を変えることは出来ない運命なのだと…、気が狂いそうになりながらも今の生活を続けることしか出来なかった。
そんな生活の中、私を救い出してくれる男性が現れる。
私にとっては救世主と呼ぶべき男性が…。




