確固たる思い~最愛の家族を守るため~④
日々両親に命じられた習い事やマナー習得、社交界に出る準備などを強制される毎日に、私は心がぼろぼろになり、早くこの家から出たいとそればかりを考えるようになっていた。そしてふと、貧しい暮らしの中でも私を大切に、愛情たっぷりに育ててくれた両親の事を思い出し、涙を流す。
貧しさに嫌気がさし、愛情よりもお金が一番と、無償の愛で育ててくれた両親の優しさを捨ててまで今の生活を得たというのに、今はその家が恋しい。でも口が裂けてもそんなことは言えない。
【それは自分で選んだ事だから…。】
そう自分に言い聞かせ、何とか日々生きてきた。
※※※
それから数年経った…、私の15歳の誕生日。誕生日パーティーを終え、部屋に戻った私は異様な眠気を感じていた。今までに感じたこともない位の強烈な眠気に、今にも眠りに落ちそうだったが、もらったプレゼントを全て確認するまでは何とか起きていなければと、半ば義務のように頑張って堪えていた。
それまでも誕生日でなくても事ある毎に、たくさんのバッグやアクセサリー、洋服など両親には買ってもらっていたが、今回は値段が破格すぎて、恐怖すら感じるようなとんでもないものを貰ったのだった。
【無数にちりばめられた、たくさんのダイヤと特大のサファイアがあしらわれたネックレス】
それは私が望んだわけではなく、父親が母親には内緒だぞとこっそりくれたものだった。嬉しさよりも恐怖が先に立つプレゼントに、私は漠然とした不安と単純な喜びを感じながらそのネックレスを眺めている間に、とうとう私は深い眠りに落ちてしまっていた。
急に胸元に冷たさを感じ、ハッと起きると目の前に全裸の父親の姿があった。私は驚き、大声を上げようとするが口をテープでふさがれており、言葉を発することを許されない状況だった。そして気付かれた事に焦った父親が慌てて両手をロープで縛り付けつけようと抑えつけてきて、
「起きちゃったのかい?今からお楽しみの所だったんだけどね…。ジュース、半分しか飲んでなかったから…、足りなかったようだね。」父親はそう言ってニヤッと笑い、
「このネックレス、お前の白い肌にぴったりだと思って買ったんだけどね、本当にぴったりだ。」と言ってロープを両手に巻き付けてから、私のはだけた胸元に付けられたネックレスに顔を近づけようとする。私は身の毛もよだつその恐怖に震えながらも、本能的に父親のだらしなく突き出たお腹を力の限り蹴り飛ばす。
ロープの結びが甘かったのか、両手の拘束から解放された私は瞬時に口のテープをはがし、はだけた洋服を直して、高めのバッグと通帳印鑑を持ち、全裸で私のベッドから転がり落ちた無様な父親の姿を写真に収め、
「私を探さないで!探したらこの写真をマスコミに売り渡すから。」そう言い放って、家を出る。
それから真っ先に向かったのは、元の両親の家。私はただひたすら以前の家に向かって走る。流れる涙もそのままに、靴が脱げようが、足から血が出ようがひたすらに走り続ける。
それからどれくらい走り続けたのだろう。足の皮がむけても気付かず夢中に走ってきた私は、以前の家に着いた安堵感で、ようやくその痛みに気付いた。でも愛情に満ちたこの家に帰ってきた事で、私の心はこの数年の緊張状態から解放され、ほっとしたのだろう、安堵の涙がとなる事を忘れるくらいにあふれ出たのだった。




