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確固たる思い~最愛の家族を守るため~③

【私か、妹が…、この家の子じゃないのでは?】


 あのスーツの男たちの先頭にいた男は何となく見覚えがあった。彼は社長が工場に視察に来た際、一番近くにいた男だ。


 もし、彼が社長の代理で今ここに交渉しに来たのだとすれば、私か妹が社長令嬢ということになりそうだ。


 幼い私は直感的に、これはチャンスだと感じる。もし私があの子と交換となれば、私は裕福で自由で、周りから羨望の眼差しで見られるようになるんだと…。


 そんな事を考えながら毎日両親の話に聞き耳を立てている時に、事の真相がはっきりする。


「何度考えても、華那と社長の子を病院で間違えるなんて…。そんな事いまだに信じられない。」父が悲しそうな目で言う。


「そうね…。でもこのDNA鑑定っていうものの結果が全てなんでしょ。でも…、今まで自分の子供だと思って育ててきたのに…、違うと言われても…。

 おっぱいあげて、オムツ替えて、初めて歩いた時の事なんて忘れられるわけないじゃない、ねえ、お父さん。」そう言っては涙を流す母の肩を抱きながら、父は、


「今回の件で穏便に事を解決するために、とんでもない大金を奴らは提示してきてるが、そういう事じゃない、そんなのが欲しいわけじゃない。あいつらには親としての気持ちとか、子供への愛情とか…そういうのがあいつらには分からないっていうことか…。あり得ない…。金や地位が人をそうさせるのだとしたら…、必要以上のお金なんかいらない…。人でなしが!怒りしか生まれてこない。」そう言って興奮している。


その言葉を聞いた私は、心の中で絶叫する。


【やったー!】


 ようやく願いに願ったこの貧しい生活から解放される日が来たのだ!!!その確信を得てワクワクしかなかった。しかし、まだ両親と社長の交渉はまとまっていない。おそらくまたあの男が来るだろうと踏んで、私はその時のために…と抜かりない下準備をしてその日を待った。


そして、その日はやってきた。


「私があっちの家に行けば問題ないんでしょう?社長さんに逆らったら、それこそお父さんもお母さんも、みんな何をされるか分からないじゃない?

 私1人が犠牲になれば…、それで家族が幸せになるのなら…、私はあちらの家に行くわ。お父さん、お母さん。」私はスーツの男、そして両親の前で、周到に用意していた言葉を一字一句違わず言う。


驚く面々の前でさらに、


「私はこの家の子です。両親に愛情いっぱい育ててもらいました。娘である私が、お世話になったんですから、両親にはそれなりのものは用意してくださるんですよね?」私はスーツの男に問う。


その問いにさらに驚く大人たちの前で私は、


「私のこの家での思い出はかけがえのないものです。両親は私を手放すことはしないとまで言ってくれているように、私も本当はこの家に居たい。お父さんとお母さんの元にずっといたい。でも…、それが家族の不幸を招くなら…、私は喜んでそちらの家の娘になります。」最後は計画通り、涙で締める。


我ながら最高の演技だったと自画自賛する。


 大人たちは、私の話を聞き、その気持ちを汲んで話を進める事となり、私は両親とも何回もこの件で話し合いをした。両親は最後まで、私とあちらの娘の交換を渋っていたが、最後は私の気持ちを最優先に、その提案を涙ながらに聞き入れたのだった。


※※※


 念願の社長令嬢となった私が、社長の家で生活してしばらくして分かったことだが、本当の両親が経営する会社は、政府の軍事機器を独占的に扱っており、会社はその業界では世界トップを誇る利益を上げ、私の想像をはるかに超えるほど潤っているようだった。


 私はまるでお客様のように大切にもてなされ、この上ない最高の時間を過ごしていた。好きな洋服、贅沢なご飯。全てが11歳の私の欲を満たしてくれた。


 しかし、そんな生活は1か月も持たなかった…。


 お金は腐るほどあるが、両親の私への対応が180度激変したのだ…。


 私がこの家に来てから、ちょうど1か月経ったころ、家庭教師をつけられることになり、手始めに学力テストをすることになる。それまで時間があれば、内職を手伝う日々を送り、勉強などしなくてもいいと考えていたので、結果は惨憺たるものだった…。


 その日から、1日4時間の勉強、そしてピアノ1時間、絵画、水泳、外国語会話、ダンス、フルートなど、ありとあらゆる習い事で友達と遊ぶ時間など全く無くなり、放課後はほぼ家に監禁状態になった。


 そして極めつけは食事の時間。宮殿にあるような長テーブルの端に座らされ、食事マナーなど知っているはずもない私は、付きっ切りでマナーを教わりながら食事をすることになったのだった。ナイフとフォークの持ち方、使う順番…、間違えば手を叩かれ、落とせば食事抜きとなった…。せっかくのご馳走にありつけた時も、いつ叩かれるか、不安と恐怖でまったく味がせず、何を食べているかも分からなくなってしまった。


 そして、とどめは毎日食後のデザートの時間に刺された。私のその日1日の言動報告が両親に対してなされるのだ。その報告をはじめは苦笑いして聞いていた両親だが、日を追うごとに、冷たい空気が漂うようになった。


「華那さん、あなた本気でやっているの?」母親が問う。私は小声でびくびくしながら、


「はい。」猫背でうつむいて話す私の様子に、


「あなたは大国寺財閥の一員なのですよ。わが財閥を背負う者なのです。その陰気臭い姿勢、ただちにおやめなさい。みっともないったらないですわよ!ああ、これなら、子供の交換なんてしなければ良かったんじゃないですの?あなた。」母親がこちらを蔑むような目で見ながら、夫に問う。


「まあまあ、わが子にそんな言い方はするな。こんなんでももう少し面倒見れば形にはなるだろう…。あの子みたいに心を壊されたら、我が一族の後継者として社交界に出すことさえできなくなるのだから。言いたくなる気持ちは、この子を見ていればよーく分かるが、ほどほどにしておきなさい。」


 そう言って高らかに笑う父親の目に背筋が凍るような異様な感覚を覚え、その気持ち悪さが何なのか私が15歳になったその日に理解することとなる。


 

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