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一言の重み~歩み寄る努力を…~

「ここ最近元気ないね。体調悪いの?」


たった一言だった。


不倫の文字が頭をこれほどまでに占拠し、心もその罪悪感で潰れそうになっている私の状況を知る由もない夫が心から心配している…。


今まで私の事など少しも興味がないと思っていた夫が…、である。


私は自問する。


「ここ最近」の言葉を使う状況とは?


答えは明白だった。彼は私をずっと気にかけてくれていたのだった。


私はそれがとても嬉しかった。何気ないたった6文字の言葉に、私は彼を裏切った罪悪感と共に、不思議な高揚感を感じていた。


もしかして夫の私への無関心は、関心の裏返しなのではと…。


ラルスは私の不倫の件は知らない。幼馴染が彼の妻に、ラルスにだけはこの件を知らせないでほしいと土下座をしてまで彼女に懇願したのだった。妻も幼馴染との関係悪化の要因が自分にもある事を自覚していたのだろう…。ここは渋々だが受け入れてくれたとの事だった。


私はその6文字の言葉をかけられて以降、少しずつ夫に歩み寄ることにした。万が一、この歩み寄りが失敗に終わったとしても試してみる価値はあるのではないかと…。


 まずは夫が家に帰ってきたら、なるべく同じ空間、時間を過ごすことから始めてみた。今まではご飯を食べ終わると、夫がテレビを見ていても、自分は早々と部屋に戻るようにしていた。しかし、これからは会話はなくとも同じ空間にいて、つまらなくても同じテレビや音楽を聴くことにしようと…。


まずは1か月。


 歩み寄りの時間として、私はこの生活を続けてみた。すると、初めのころは、今まで同じ空間にいることがほぼなかった私が近くにいることに戸惑いを感じているのか、彼の方が部屋に戻ってしまった。


 私はそれでもめげずに、リビングを生活の拠点として、彼が部屋から出てくれば必ず私の顔が見える位置にいる、そんな生活を試みた。


 日を追うごとに、彼がリビングにいる時間が増え、そして最初は私の顔を見てもすぐ目をそらしていた彼だったが、徐々に私と向き合う時間が多くなり、短いながらも会話も増えていくのを感じるようになった。


 次の1か月は、スキンシップを目標にした。出勤の際、玄関まで行き、完璧な彼の服に埃などついているわけなどなかったが、埃を取るふりをしたり、襟を直すふり、試みから3か月目に入るころには、今まで作ったことのなかったお弁当を作り、それを手渡しする。など本当に少しずつだが、気を配りながら歩み寄っていった。


彼の無関心が完全に作られたものだと分かったのは、3か月と半が経った日の朝だった。

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