死後見えるもの~残る後悔~
レティシアは、凱の言葉通り、ナータン最期の日、肉体が滅び魂となってから、様々な事を理解した。
ラルスの清き魂の本質、過去、その中でどのように考え行動してきたのか…。そして自分が生前、ラルスに歩み寄り、理解し、様々な事をあえて共有しようとしなかった、夫婦として『空白の時間』を過ごしてしまった事を後悔した。
しかし、おそらく人は皆そうなのだろう。肉体という鎧を外し、無防備な魂のみの状態になってから、人は初めて全てを知り、後悔する。生きているうちは見えない、人の本質も全て見え、善人と思っていた人の魂が実は悪人だったり、悪人が実は善人だったり…と。
多くの人は自分を善人に見せるために嘘をつく。
うまく装える人、出来ない人。
その嘘を見抜く人、見抜けない人。
様々な人がいる中で、自分は国内有数の大企業を経営する一族に生まれ、裕福で恵まれた生活を送り、大切に守られ、育てられてきた。両親に決められた環境、決められた交友関係の中から出ることは許されなかったし、自分自身も出ようという勇気もなかった。
そんな生活の中、自分の縁談が進められている話を聞いても、それが当然の事だと思っていたし、疑問すら持っていなかった。政略結婚が義務で自分の意思が許されないことは初めから分かっていたし、ある意味自分が「駒の一つ」であることも理解していた。
しかし、自分は両親から愛されて生きてきたという自負があったし、そんな両親だからこそ、問題のある男性と結婚させることなどしないはずだと思っていたので、何1つ怖くなかった。
だから、初めてラルスの写真を見た時、彼の容姿に関しては非の打ち所がなかったので、自分はなんて幸運なんだろうと思った。しかし、彼のその目に何となく冷たさを感じ、少し怖さも感じたのも事実だった。
私はその一抹の不安を拭うために、両親の自分への愛情を思い出し、その不安に蓋をして、今まで育ててくれた両親の為にもこの婚姻は破談にはできないと…、全てはいい方向に向かっていくに違いないと自分に信じ込ませていた。
だか、私が抱え、蓋をしてきたその不安は結納の時に露呈したのだった。




