母~それぞれの我が子への想い~
私はレティシアに渡した石を通してナータンの戦況を見ながら、パソコンに向かう凱に、
「ちょっと前に私が夢で見たラーニーの過去はやっぱり全て真実だったってこと…だよね…?
ラーニーは閃の魂、閃であったころの記憶も思いも全てを引く継ぐ者。そして母親から虐待されていた状況とか…、私が夢で見た状況が全部正しかったとしたら、本当にあり得ない状況で人生を送ってきたってこと…。華那から受けていた虐待とそこから逃げ出した後の彼の境遇はあまりに不遇過ぎる…。
もう少し、華那とラーニーの過去が分かれば…、ラーニーが破壊神になるまでに至った経緯が分かると思うし、今後に役立つかもしれないけど…。」
そう話しかけると、凱は少し手を止めて答える。
「そういえば、今回の戦いについて誰が誰と戦うか…、の話し合いの時にお前は俺にだけ、可能であるなら…て、この2人の戦いを提案してきてたな…。その時はレティシアさんをこの世に召喚できるなんて思いもしなかったから、何言ってるんだろうって思ったけど…。
その時ラルスが、2人の母、つまり華那とレティシアさんの子供に対する想いを聞くことで、レティシアさんはラルスとの関係で、もし過去に誤解があったなら、それを解くこともできるかもしれないし、本当に伝えたかったことも伝えることができるんじゃないか…、
華那に関しては、ラーニー、朔への虐待の理由とか、虐待の詳細とか…、分かるかもしれないって熱弁してたけど…。確かにここで華那から奴の話を引き出せれば、弱点もつかめるかもしれない。
それに、すでに亡くなり魂となったレティシアさんには今、過去華那がしてきた悪行の数々が全て見えているだろうから…、それに関してレティシアさんの母親としての思いがあるだろうし、彼女の同じ母としての華那への怒りは俺たち以上のものがあると思うから、言っちゃあ、ある意味最強かもな…。
だからこの組み合わせに関しては…、本当に驚かされてる…。
お前がここまで考えて、この2人を何とか引き合わせて、その2人の話をティアナとラルス、朔、ラーニーに聞かせたいと言ってきたときは驚いたし、そんな状況を作る事なんて難しいって思ったけど…、まさかティアナのピンチにレティシアさんを呼んでくるなんて…。
でも、この時間はきっとティアナとラルスにとっては特にかけがえのないものになっただろうな。」
凱は穏やかな表情で話す。
「私、この前の朔と華那の戦いのときに、同じ女性として、本当に華那の事が許せなかった。どうして自分の子供にあんなひどいことができるのか理解できなかったの。
アースフィアでニュースを見ると頻繁に子供への虐待のニュースが流れるけど…、見るたびに心が苦しくて…。
それでいろいろ考えてたら…、フッてレティシアさんの顔が浮かんだの。ラルスとレティシアさんの間には、お互いが本音で話せなかったからこその深い後悔があって…、でもティアナに対する2人の愛情はとても深い。
もし彼女をこの世に召喚する事が可能であれば、過去のわだかまりも何もかも、もしかしたら全て解決できるんじゃないかって思ったし、華那に母親の愛情の深さを身をもって感じて、ラーニーと朔に心からの謝罪をしてほしいって思ったんだ…。
当人たちは、そんな事望んでないとは思うけどね。実の母親から受けた心の深い傷はどうやっても治すことは出来ないだろうし、癒すことも出来ないと思う…。でも…、このままじゃ納得できない自分がいた…。私の勝手な願望だよね…。
でもそれが現実となった今…、華那とレティシアは同じ母という立場なのに、全く異なる子どもへの思いがあって、それをこの戦いでぶつけあうんだもんね。この2人の戦いに、違う戦場で戦う朔と、戦況を見てるラーニーはどう感じるんだろう…。私は華那みたいな母親には絶対になりたくない…。」
そう言った後、私は神遣士にまつわるあの理を思い出し、
「あっ、私自身、恋愛なんて出来ないんだから子供は望んじゃいけないのに…、ね。
なんか、熱くなっちゃった…。」
と苦笑いしながら肩を落として言うと、暫く私の顔を見て何かを考えていた凱が、パソコンに再び向かいながら、
「お前はいい母親になるよ。俺が保証する。」独り言のようにぼそぼそと言う。
はっきり聞こえなかったその言葉に私は、
「今、なんて言ったの?」
と聞き返すが、当の凱はアースフィアを襲う魔獣用軍事兵器の再配置プログラムに、顔を真っ赤にして集中している。その姿を前にして、私はそれ以上話しかけることは出来なかった。




