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抱擁~再び感じるその懐かしい温もり~

 最愛の娘の救出に向かった2人の目の前には、息絶え絶えのティアナに纏わりつく無数の魂によって作られた光の球体があった。


「この中にティアナが?」レティシアが恐る恐る聞くと、


「ああ、今からこの魂を全て、この石の中に封じ込め、怨念の塊と化した魂からティアナを解放する。

レティシア、少し下がって。」


 ラルスは私がエドヴァルドに渡した石を持っていた。


 それは先ほど、エドヴァルドの心にラルスへの疑念を生んだ護衛者の石だった。エドヴァルドはこの数分の戦いの中で、ラルスへの信頼を確立していた。それは自分が犯した罪で死んだ多くの人々へのラルスの誠実な行動が、エドヴァルドの心を大きく動かしたからだった。


史上最悪と言われる化学兵器の開発…。自分の体や命がどうなろうとも、その罪を何とか最期の最期まで償おうとするラルスの熱き想いにエドヴァルドは胸を打たれ、先ほどまで抱えていた彼への疑念に恥ずかしささえ抱いていた。


ラルスは、最愛の女性にを前に力強く言葉を放つが、出血の量が致死量を超えたラルスの体は限界に近い状態だった。何とか体を動かそうとしているラルスを見て、


「あなた、その体では無理よ…。」レティシアの顔はラルスの怪我の状況を見て、血の気が引いているのが見て取れる。


「いや、大丈夫だ。大切な娘の命を守るためなら、私はなんだってできる…。


そして…、こうやって愛する君にも会うことができた。私に思い残すことは何もない。


この命を投げうってでもティアナを救う…。」


 ティアナが拘束されている球体をまっすぐ見つめながら誓う夫の姿にさらに涙を流しながらレティシアは、


「ねえ、あなた…。私にほんの少しでいいから力を貸してほしいの…。


私にはあなたみたいな特別な力がない。でも私もあなたたちの為に何かしたいの。


ティアナの心層に私が入れるように…、あなたの力で私を導いてほしい…。


私もティアナを…、愛するあなたを救いたいの。」ラルスは微笑んで話すレティシアの頬に手を当て、


「分かった。レティシア。君と私の大切な娘を私たちの手で救おう。」


そう言うと、ラルスはレティシアの幻影にキスをする。すると、レティシアの幻影を縁取るように光が生まれ、レティシアの体が足元から徐々に実体化していく。


「えっ?」


驚くレティシアをぼろぼろの体で思いっきり抱きしめるラルス。


「ああ、レティシア。私の最愛の人。」


 ラルスはそう言いながら、レティシアを抱き上げ、彼女を見つめる。レティシアは少し頬を赤らめ、その瞳に吸い込まれるようにラルスにキスをする。ラルスはレティシアを下ろすと、今度は見下ろすようにしてレティシアの頭を抱えるように優しく、そして情熱的なキスをする。しばし見つめ合い、レティシアが口を開く。


「もし、万が一、万が一にでもあなたに会うことができるのであれば伝えたいことがあったの。手紙にも書いたけれど…、


私が愛していたのは、あなただけだった。


あなたしかいなかった。あなたが私の全てだった…。


私が過去にしてきたこと…、今更謝罪の言葉を重ねても何の意味もないことは分かっているわ…。


でも、私は自分の口で、言葉であなたに伝えたかった…。


本当にごめんなさい…。」そう言って再び涙を流す。


しばしそんな妻を見守っていたラルスは、その涙を優しく大きく骨ばった手で拭い、


「今の君の言葉が全てだろ?


手紙でも十分伝わったけれど…、こうやって直に伝えてくれてありがとう。


確かにあの時の私は…、愛する君に裏切られたと…、全てがどうなっても良いと自暴自棄になっていた…。


あの時の私には君しか見えなかったから…。


そんな私は、その後…、取り返しのつかない事をしてきてしまったが…、もう今となっては、その罪をこの命に代えてでも償う事しか自分には出来ない…。


そして私と君の最愛の娘をこの手で救う。それが今自分がすべき最大の使命だ。


それをしっかりと果たしてくる。君が望むなら、共に果たそう。


2人で…。」


ラルスはそう熱く語るとレティシアを再び抱きしめる。


2人の想いが1つになり、その場に温かく柔らかな風が吹く。


ラルスがレティシアの体をさらに強く引き寄せると彼女の胸の辺りで何かに気付く。


ラルスは少し体を離し、尋ねる。


「ポケットに何か入ってるのか?」

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