兄の知らない弟の真の姿~確執~
ティアナの攻撃を受けたジルヴェスターは、自分を纏っていた炎を消し去る。激しい炎を纏っていたのでダメージも相当なものになるだろうと思っていたエドヴァルドは、無傷のジルヴェスターを見て、ごくりと唾を飲み込む。
しかしティアナには想定内だったのか、驚きの表情一つ見せず、平然としている。むしろ、この戦闘にわくわくしているように見えるのは気のせいか?と感じさせるほどの余裕の表情には、見ているこちらが驚きを隠せない。
「なんだあの子のあの余裕は…。」エドヴァルドは無意識に言葉を発する。
ティアナはその後、何度かその場でジャンプをして、腕や首を回し、ウォーミングアップは終わったと言わんばかりにこちらを見てにこっと笑い、表情を戻すと次の術を考えているようだった。
そんなティアナを横目に祈りを捧げるラルスの護衛に入るエドヴァルドだったが、ジルヴェスターの動きが妙に気になり始めていた。しきりに何かを呟いてはいるが、一向に攻撃の気配が感じられない。
『なんだ?なぜ攻撃してこない。』
それはすぐに判明した。
ジルヴェスターの口の動きと連動するように、彼の立っている場所から半径5m圏内の地面から、こぶし大の黒煙を纏った炎が放出され始め、その数が徐々に増えていくのが見て取れる。
術言の長さから予想されるのは、その炎を使った強力な術が繰り出される可能性が高いという事だ。
「なんなんだ。あの術は…。」額から焦りの汗が流れ落ちるのを感じる。
兄エドヴァルドは、長年共に鍛錬を重ねてきた弟のこの術をこの時初めて見たのだった。自分の知らない弟の姿に、背筋が凍りつくような恐怖を感じ、その大切な弟の心を悪に染めるきっかけを作った過去の自分を悔いる。
「ジルヴェスター…。」
兄は弟との確執が生まれたであろうあの日の事を思い出し、悔やんでも悔やみきれない思いに、ただ唇を嚙みしめる事しか出来なかった。




