幼子の驚異の力~言葉を失う2人の大人~
そんなことはつゆ知らずのティアナは、しっかり肩を回したり、腕を回したり…、命を懸けた戦いを前にした子供とは思えない程平然な様子で準備運動をしている。そして、
「お父さん、そろそろ私、始めるね~。」
と呑気に伝える。
その瞬間、その小さな体はこちらの様子を伺うジルヴェスターの懐にあった。
そして、すぐさま自分とジルヴェスターだけの領域を作り、その中で自分の体の周りの熱を1,000℃まで引き上げ、ジルヴェスターの体を焼ききる攻撃に入る。
この術は、コンラードが修行の際に使っていたものだった。
ジルヴェスターの体は、一瞬にして炎に包まれ、そのすきにティアナは、祈りを捧げる華那に向けて攻撃を開始する。
瞬く間の攻撃にラルスもエドヴァルドも目を奪われ、自分がやるべきことを忘れてしまうほどだった。
「なんだ、あの強さと速さは…。」
ラルスはわが子の力に恐怖さえ感じていた。
「さすがですね…ティアナの力は計り知れないものがあります。」
エドヴァルドは苦笑している。
ラルスもその言葉に苦笑して、
「ほんとに、一体全体どうなっていることやら…。」と呟き、続ける。
「ところで…、エドヴァルド。莉羽から渡された石だが、私が持っていた方がいいと思うんだ。」
と言って手を出すラルス。
唐突な提案に、エドヴァルドの頭の中に一瞬横切る弟の面影。
思いもしない人物による裏切り、しかも実弟の裏切りはエドヴァルドを簡単に不安に陥れることになる。
「なぜ?これは護衛者である私の役目のはずですが…。」
自然にラルスを睨みつける。
「そう睨むな…。君が不安になる気持ちはわかるが…、唐突だったな。すまない。
何となくで、はっきりした理由は分からないんだが…、さっきから私がその石を持っていた方が良いような気がしてならないんだ…。
でも、君が私に不信感を感じてしまうようなら大丈夫。変な提案して悪かった。」
ラルスはそう言うと、空から降ってくるたくさんの人造人間たちを見て、
「そろそろ始めるとするか…。」
ラルスはエドヴァルドの顔を見て頷くと、エドヴァルドも気を取り直して祈り始める。
化学兵器のもたらした環境破壊は他国のものとは比にならない。
おそらく相当な時間と労力が必要だろうと容易に推測できる。
しかし進めなければならない。
ラルスは早く環境浄化のための回生を終わらせて、ティアナの応援に入りたいところだったが、そうは簡単にはいかないことを理解する。




