佑依と私~親友への劣等感が生んだ感情~
玄人に代わり、佑依を洗脳から解き放つため、莉月が佑依に語りかける。
「佑依ちゃん…、あなたがずっと抱えてきた思いがここで少しでも軽くなればいいのだけれど…。
これを見てほしいの。私と佑依ちゃんのお母さんの会話。
お母さん、佑依ちゃんの事とても心配しているわ。だから目覚めて家に帰ろう。」
そう言うと莉月は佑依の心層に、ある日の莉月と佑依の母の会話を映し出す。
『「莉羽ちゃん、陸上でどんどん成績伸びてて、すごいんだって佑依がいつも興奮して話すのよ~。」
「あら、そうなの?莉羽の方も、佑依ちゃんが私よりもすごく努力してるから、私も負けずに頑張りたいって言って、毎日凱君と家に帰ってから、かなり遅い時間まで練習してるのよ。そんなに練習したら足がどうにかなっちゃうんじゃないかと心配になるくらい。」
「そうなのね。佑依は、莉羽ちゃんは努力しなくてもどんどん記録が伸びて羨ましいって言ってたけど、莉羽ちゃん、すごく頑張ってるのね。」
「絶対に佑依ちゃんと全国大会に出るんだって、中学の部活を引退した後も毎日走りに行って…。約束したのに自分が足を引っ張れないって、毎日帰ってくると、佑依ちゃんは今日どうだったとか、クラスでも佑依ちゃんがこんな事して凄いんだとか、佑依ちゃんの話ばかりしてるの。
佑依は私のよきライバルであり、最高の親友なんだって、嬉しそうに話してるわ。」
「そうなのね。うちも今日は莉羽ちゃんが記録をどれだけ伸ばしたとか、成績がすごいとか、話題は莉羽ちゃんのことばかりよ~。
でも、莉羽ちゃんがそう言う風に言ってくれてるって聞いたら佑依喜ぶわ~。2人で全国大会に行ってほしいわね。」
「ほんとに。こんなに頑張ってるんだからね。」
それまで険しい表情で祈りに集中していた佑依は、突然映し出された映像に驚く。
莉羽がどれだけ努力をしてきたか…、私をどう思っていたか…なんて、今まで知るはずもなく…、たった今、知ったのだった。確かに部活が終わった後も走っているとは聞いていたけれど…、そこまでだとは思っていなかったのだ。
※※※
『莉羽とは確かに親友として、幼いころから一緒にいろんな事を頑張ってきた…。
でも莉羽は、何においても苦労もなく、難なくこなして…、いつも笑顔で私の先を歩いていた…。
その間、毎日毎日、勉強にトレーニングと血のにじむような努力を積み重ね、何とか追い越してやろうと一生懸命頑張っている私は、いつまで経っても莉羽を追い越せないばかりか、どんどん引き離されていった…。
そんな莉羽を私はいつの間にか…、マイナスの感情を持つのは嫌だと思いつつも、憎らしく思い始め、その思いが日に日に大きくなっていくのを感じ、同時にそんな自分に怖さも感じていた。
一度思い始めたら、その穢れた思いは留まることなく増幅し、莉羽に対する負の感情が私の心を占領するようになっていった。
『莉羽以上の努力を積み重ねている私がなぜ?なぜ、勝てないの?
こんなにも苦しい、辛くてどうしようもない、血のにじむような努力をしているのに…。
どうして?
世界は不平等すぎる。神様は何を見ているの?』
ここ数年、私はずっとそう思ってきた。




