あの日の記憶~時間よ戻れ~
【その日は、1週間後に行われる大会に向けての記録会の前日だった。
俺と佑依はその日のために毎日部活の後も近くの公園で走り込みを行っていた。スタート、フォームの確認。お互いがお互いを確認し合いながら、全力を尽くしてきた。
「いよいよ明日だね、玄人。」
「そうだな。なんかあっという間だったな。」
「うん。高校始まって最初の記録会。中学最後の大会から考えるともう8か月くらい経ってるんだね。」
「ああ、でもさ…。俺たちって結構頑張ってるよな。受験勉強してる間も毎日走りこんでたし…。」
「ふふふ。ほんとに…。でも、みんながいるから頑張れたと思う。
だって、私たちの最強のライバルの莉羽と凱って…、2人がそれぞれの親友ってなかなかないよね。
近くにいるからこそ、どれだけ努力してるかも見れるし、お互い励まし合いながら頑張れる。
最高の環境だよね。」
にこにこ笑顔でうんうんと頷きながら佑依の話を聞く玄人は、ハッとして、
「おいおい。それはそうだけどさあ…。毎日こうやって一緒に練習してくださっている俺の存在を忘れてもらっちゃ困るぜ。」
今度はニヤニヤしながら言う。
「ははは。自分でくださってるとか言ってるし…。あんただって私がいるから毎日頑張れるんでしょ?
そう言うなら私にも感謝してもらわなきゃ困るよ。」
佑依は髪をかき上げながら微笑んで答える。その美しさに思わず見とれていることに自分で気付いた玄人は慌てて、
「そっか…、じゃあお互いに感謝だな。」答える。
そんな玄人の心情を知る由もない佑依は遠くを見ながら、
「そうだね、フフフ。
それにしても…、緊張するな~。こんなに準備して、努力して、コンディションもばっちり仕上げたし…。
あとはやるのみ…だもんね。」とにこっと笑いかける。その笑顔にハートを再び撃ち抜かれた玄人は、
「あ、ああ。…。こんなに頑張ったんだ。お前ならできるよ。」
動揺して倒した水筒を拾い上げながら、何とか動揺を見せまいと顔を作って佑依の顔を見上げる。
「何、真面目な顔して真面目なこと言ってんの?玄人らしくない。ってか、水筒全部こぼれたんじゃない?全く~。」
少し呆れながらも佑依はお母さんのように世話を焼き、水筒の周りを拭き始める。
「水筒は大丈夫だって…。
って、それよりも…。
ばっか。さっきのは、お前の努力をちゃんと見てきた俺にしか言えないセリフだぜ。
ありがたく受け取れ…。全くいつも馬鹿にしやがって…佑依のくせに…。」
佑依には見えていないが、口を尖らせて言う玄人の耳は恥ずかしさで真っ赤だった。
「佑依のくせに、は余計だよ。
でも、玄人、ありがとう。玄人も明日頑張ってね。」
「ああ。一緒に頑張ろうな。」】
『ここまでは良かったんだ…。ここまでは…。その次の日の記録会の後が問題なんだよな…、畜生。』
そう考えていると再び佑依の攻撃が玄人の足に直撃する。
「ったく、俺としたことが油断した…。痛ぇよ、佑依のやつ…。
でもどちらにせよ、俺はあいつに攻撃できないんだもんな…。マジでどうするか…。」
考えていると、莉月が玄人の心層に呼びかける。
「玄人君。このままじゃあなたの命が危ないわ。
私に考えがあるの。
それで佑依ちゃんが目覚めるかどうかは賭けになってしまうけど…。
それまで響夜さんが治癒魔法をかけてくれるから、回復しておいて。」
突然の莉月の提案に戸惑う玄人だったが、
「すみません。お願いします。」
そう言うと、後退し響夜による治癒魔法を受ける。




