玄人~届け、この思い~
アースフィアでは佑依が流天力渦の中心を担っている。
「おい、佑依。お前もうやめてくれよ。お前にこれ以上悪者になってほしくない!」
玄人はここに来るまで強気でいたが、実際佑依が祈りを捧げる姿を見て涙が溢れそうになっていた。
「…。」
佑依は無表情のまま答えない。
「俺は笑ってるお前が好きなんだよ。そんな能面みたいな顔してる佑依は佑依じゃねえよ…。
なあ、戻ってこいよ、佑依。」うなだれる玄人。
「…。」
それでもなお、微動だにしない佑依。
「なんで何にも答えないんだよ…。洗脳なんかされてんじゃねえよ、馬鹿…。
俺だけ見てれば洗脳なんかされなかったのに…。」
唇を噛みしめ、拳を握りながら続ける。
「なんで、俺はあのとき佑依に強引にでもこっち向くようにさせなかったんだ。
馬鹿か俺は…。
馬鹿だよ…、俺は。ほんとに…。」
強く握りしめた拳で自分の太ももを何度も叩きながら呟く玄人の目から光るものがこぼれ落ちる。
胸が痛くなる程の玄人の思いに、ターンの祈りを捧げながらも気が気でない莉亞が、
「お父さん、佑依をどうにかして。私は自分の事は自分で守れるから…。」
響夜の心層にに語りかける。
「何言ってるんだ。こんなにもたくさんの敵がお前を狙っているというのに…。」
響夜はあまりに突飛な話に驚きを隠せない。
その2人の心層でのやり取りが玄人にも届く。
「莉亞、俺は大丈夫。俺自身がこいつをどうにかするから…、どうにかしないといけないから…、
だから…、回生に集中してくれ…。気持ちは受け取った。ありがとう。」
心層に届いた莉亞の声に、玄人は自分の使命を改めて実感する。
「玄人…。」莉亞は自分の子供のように純粋な玄人が心配でたまらなかった。
「俺、逆境に燃えるタイプだから…。だから、任せてくれよ。」
この状況でも明るく振る舞う玄人の作り笑顔に胸が苦しくなる莉亞だったが、
「分かった。あなたの思いが届くことを祈ってる。」
今送れる最高のエールを届ける。
「ありがとう。」
莉亞の思いを十分に受け取った玄人は、涙を拭くと、佑依を指をさし、
「俺は絶対お前を目覚めさせる。わかったか、佑依。」
そんな玄人の気持ちは全く伝わっていないかのように表情を変えない佑依。それどころか、突如玄人に攻撃を始める。
油断していた玄人は腕に傷を負う。
「くそっ。」
負傷した腕を抑えながら、玄人はあの日の事を考える。
佑依が心をラーニーに支配されることになったであろうあの日を…。




