災厄の始まり~流天力渦~
「お姉ちゃん?」
あまりの突然の事にアーロはただ呆然と見ていたが、我に返りケイトの方に走っていく。
「だめだ。姉さん、行っちゃだめだ。」
再び洗脳されたことを察知したアーロは、あらゆる魔法を使ってケイトを止めようとする。しかし、ケイトは歩みを止めない。
『ケイト。お前はこちら側の人間だと言ったはずだ。
お前の中には怨念が深く刻み込まれている。
それは消そうと思っても簡単には消せないものだ。お前の父親の深い深い怨念が…。』
「この女の人の声は?えっ?莉奈?やめて!もうお姉ちゃんに関わらないで!」
『そうはいかない。ラーニー様の目的はあと少しで達成する。お前たちに邪魔などさせない。』
「お父さんの怨念ってなんだよ。お父さんはそんな人間じゃない!」アーロが叫ぶ。
『何も知らない…可哀そうな子だ…。』
そう言うと莉奈に洗脳されたケイトがアーロに向けて、漆黒の矢を放ち、その矢がアーロの足をかすめる。
「姉さんの体を使って僕を攻撃してくるなんて…。」
アーロの怒りが頂点に達し、彼の体を包んだシルバーのオーラが、その体から解き放たれ、泉一帯を聖なる力で包み込む。そして目を閉じ呪文を唱え始める。すると地上にあるすべてのものが重力に反して浮きあがり始める。
『これが神士教の力…。
こんなにも小さな子供がここまでの力を…。
しかし、ここで私が敗れるわけにはいかない。このままここで始めるしかないという事か…。』
そう言い残し、天まで伸びた水柱にケイトを封じ込め、莉奈は天空へ向かう。
「おい!莉奈!姉さんを返せ。」
アーロは水の中に閉じ込められた姉を救うため、必死に手を入れようとするが、その水は鋼鉄の様に固く姉に触れることすらできない。
「くそっ。なんでだ…。」
焦ったアーロはあらゆる魔法を使って、姉を救出しようと試みる。
しかし水はただ流れ落ちていくだけで、中に閉じ込められたケイトは莉奈の力で金縛りの様に身動き1つできない状態でいる。
すると再び天空より莉奈の声が響き始める。
『五大神女たちよ。
今、我らが神、ラーニー様の崇高な世界の創世の時が来た。
この時を以って「流天力渦」に入る。
ラーニー様の御心と同じ意思を持った、新たな人間たちの世の幕開けだ。
さあ、現存する人間を新たな生命の糧とするべく、お前たちの力と祈りをラーニー様に捧げるのだ。』




