姉と弟~長き月日を越えて語り合う、あの日の出来事~
一方、アーロは洗脳が解けたケイトと共に、父と母に今まであった様々な報告をするため、聖なる泉「ヴァイマリア」を訪れる。この日は、この地方には珍しく曇り空で少し肌寒かった。
「お姉ちゃん、大丈夫?怪我、まだ完治してないんだよね?」
「ありがとう。大丈夫よ。アーロ。あなたは昔からそうだったけど…、本当に優しい弟ね。」
大好きな姉に褒めてもらえて上機嫌なアーロは、笑みをこぼしながら得意げに、
「でも、優しいだけじゃないよ。すごく強くなったし、莉羽にも結構頼られてるんだ。」
アーロは誇らしげに言う。
「知ってるよ。莉羽ちゃんにいろいろ聞いたの。あなたがどれだけ頑張ってきたか…、お父さんもお母さんも、報告したらすごく喜ぶわね。」
「そうかな?そうだといいな。」アーロはさらに嬉しさいっぱいの笑顔で、
「お姉ちゃん!ねっ、早く、早く~。」そう言ってケイトの手を引きながら進んでいく。
※※※
そして3年前のあの日、ケイトが泉に吸い込まれてしまったあの場所に着く。
「あの日、いつも通りガージリフトさんのお手伝いで木材をまとめていた時、お父さんが私を呼ぶ声を聞いたの。幻聴だと思ったけれど…、声がする方に進んでいこうとしたら、目の前にあなたがいた。
その時の私は、あなたを心配させてはいけないと思って…、あなたについてきちゃだめよと言って、父の後を追ってこのヴァイマリアに来たの。でもあなたはこっそり私の後をついてきてしまったのよね?」
「うん。だってお姉ちゃん、いつもと様子が違ったからどうしたのか気になって…。」
ケイトは、当時の事を思い出して今にも泣きそうになっているアーロの頭を撫でながら、
「いつも周りにはガージリフトさんやミディア、リディアもいたけど…本当の家族は私たち2人だものね。それがこんな大変なことになるなんて…。ごめんね、アーロ。」
「お姉ちゃんのせいじゃないよ。全部ラーニーの奴が悪いんだ。だからお姉ちゃんは謝らないでよ。」
鼻をすすりながら答えるアーロ。
「ありがとう。」ケイトはそう言ってニコッと笑いかけ、アーロを抱きしめる。すると、恥ずかしさのあまり真っ赤になったアーロは、照れ隠しですかさず、
「さあ、お父さんとお母さんに報告しよう!僕たちの事。これからの事。」
そう言って、姉の体を遠ざけようとする。アーロの気持ちを察したケイトは、
「うん、そうね。」そう言って、2人は持ってきたお花を泉のほとりに供え、祈り始める。
アーロはその祈りの中で、姉がいなくなってからの事を思い返しながら両親に語りかけていた。




