神遣士の言葉~未だ聞えぬ神の声~
リーゼとのそのやり取りの中、私はある事を再び思い出す。
『神遣士の立場でありながら、神の言葉が一切聞こえないこと。
なぜ私には聞こえないのか…。本当に自分は神遣士なのだろうかと…。』
その不安が私の心に暗い影を落とし始める。
『私はここにいて本当に良いのだろうか…』
私は無意識にうつむき始めていた。
そんな私に、スヴェンが、
「先ほどまで私は完全に悪に飲まれ、自我を失う所でした…。
しかし、父の思い、またメルディスティアードの思いで私は今ここにいます。それも全て過去、莉羽様が説かれたその言葉に賛同した父の気持ちだと思うと…、私は莉羽様に感謝の気持ちしかありません。
本当にありがとうございます。」スヴェンはすっきりした笑顔でそう話す。
私は、少し戸惑いつつ、笑顔で、
「ごめんなさい。本当に記憶が無いんだけど、2人がそう言ってくれるってことは…、そういう事なんだとは思うけど…。とりあえず…、ありがとう。」苦笑いしながら伝える。
すると玄人が、
「ほらほら顔が強張ってんぞ。」とすかさず突っ込んでくる。そんな玄人に私が、
「全く、玄人は…。」と漏らすと莉亞が、
「はいはい、皆さん、今から飛びますよ。莉羽も準備して。」そう言ってメルゼブルクに飛ぶために術をかけ始める。
少しずつ光の輪が大きくなり始めると、その隣に突如大きな闇が現れ、仲間たちの間に一気に緊迫した空気が流れ始める。
「何…、これ。」ふと言葉を漏らすと、その闇の中から、低く重苦しい声が響いてくる。
「さあ、契約の時がきた。こちらへ来るがよい。」
聞こえてきたのはそう紛れもないラーニー、その人の声だった。
皆がハッとスヴェンを見ると、その瞳は真っ黒に変わっている。
リーゼは心の目で状況を飲み込むと慌てふためきながら、
「駄目よ、スヴェン、そっちに行っちゃ。」出来る限り手を伸ばすが、時はすでに遅かった…。
皆の目の前でスヴェンは一瞬にして闇に飲まれ、その姿はどこにも見えなくなっていた。




