ペンダント~父が残してくれたもの~
すると、
「そう、私がこの者と取引をした本当の目的は…、
クラウディスの次期後継者問題など、そんなつまらぬものではない。
この者の会得した魔法の中に…、
『死者の体を永久に保存し、その体と能力を欲する者が、その体を取得できる』
という新魔法があった。
それはこの者が生み出し、そしてこの者だけが使えるものであるとの話を聞いた私は…、
この者に提案した。
『そなたが命を失うことがあった場合、私は全魔導書を網羅しているそなたの体を手に入れたいと…。
そして、そなたはメルディスティアードの地位を望んでいる…、ならば交換条件でどうだ?』とな。
案の定、利害が一致したのだ。
そして、それが今実現しようとしている。そなたたちはなんとしあわせものなのだろうか。ハハハハハ。その奇跡の瞬間をその目にしかと焼き付けるがいい。」
そう高らかに言い放った直後、ハラール2世の実体が拳ほどの光の玉になり、今まさにメルディスティアードの体に入り込もうとしている。それを何とか止めようと凱をはじめとする仲間たちが、力を徐々に上げていく。すると、突然、
「ぎゃー。」という叫び声と共に、光の玉が王の実体に戻り、血を吐き出す。何事かと驚く私たちの前に、真っ黒な光の筋が、突如私の胸から解き放たれる。
「何?」私は恐怖で身震いした後、その光の出どころを確認する。
それは父であるメルディスティアードが残したロケットペンダントだった。ゆっくり衣服の中から取り出し、仲間の前に出すと、凱がはっと気が付く。
「それは、シュバリエで拉致されてメルゼブルクに迷いこんだあの老人が持っていたペンダントか?」冷静な凱もかなり驚いている。
「そう、あのおじいさんがメモを入れて置いてくれた、あのペンダント!」私も興奮が収まらない。
するとその光の中から現れた黒い光の筋が分かれ、先ほどと同じようなこぶし大の光の玉になり、王の体の中に次々と入り込んでいく。その度に王の体が跳ね上がり、口から血を吐きだす。
次から次へと生まれては体に入り込む光の玉は、王の体を全ていきわたると、七色の光になって体外に放出され、再びペンダントの中に吸い込まれていく。
どれほどの光が放出されただろうか。
あまりに突然の出来事に、仲間たちはしばらくそれを見つめる事しか出来なかった。
王の口から吐きだされた血は、王の体を囲むように血の海と化していた。
もう光が入り込んでも王の口から出る血もなくなったのか、それ以降、王の体が動くことはなかった。




