紋章の運命~禁忌の言葉~
「言ってはダメよ。それ以上…。」リーゼはスヴェンの胸の中で涙を流しながらも、はっきりと伝える。
そんなリーゼの言葉に高まる思いを止めることが出来ないスヴェンは、
「なぜです…、リーゼ様。」問い詰める腕に力が入る。
「お願いだから落ち着いて、スヴェン。私の話を聞いて…。」大粒の涙が溢れる。
「分かりました、リーゼ様。でも、なぜ止めるのです?私には時間がないのです。」声を震わせるスヴェンの頬に、リーゼはそっと手を当て優しく微笑むと、
「紋章の運命に触れるわ…。」リーゼは深呼吸をして心を落ち着かせ伝える。
自分が言わずとも、リーゼが自分の想いを全てを悟っていることに、苦笑の笑みをこぼすとスヴェンは冷静を取り戻したのか静かに話し始める。
「リーゼ様、私の運命の先に待つのは死のみです。先ほど申し上げましたが、私の未来は2通りあります…がしかし、結局どちらを選ぼうと、その先にあるのは「死」なのです。
なぜなら…、私の父の死の真相が分かった以上、私はあなた様の父上、ハラール2世を殺めるつもりだからです。
私は…、その目的の為に今まで生きてきたのですから…。
私はこの後、王の元に行きます。目的を果たすために…。
ですので…。」リーゼは悲鳴のような声を上げる。
「スヴェン…、私の父があなたのお父様、そしてあなたのご家族にしてしまった罪は私が代わって謝罪します。だから…、思い直して…。お願い。スヴェン。」そう言って、深々と頭を下げる。
スヴェンは彼の胸の中で頭を下げるリーゼの頭を撫でながら、
「リーゼ様がそのような事をされる必要はありません。どうか顔をお上げ下さい。」
そう言って片方の手をリーゼの頬に当て、今や暗闇しか見ることが出来なくなってしまったその深く閉じた瞼の奥にある瞳を、愛おしそうに見つめる。リーゼはスヴェンの顔を見上げながら静かに、
「私の謝罪に何の意味もないことは分かっています。でも…、私にはこれしかできない。深く傷つき絶望の中を生きてきた、あなたの家族の心から、この事実を消し去ることは出来ない…。ごめんなさい。本当に…。」
そう言ってまた溢れる涙が彼女の白く美しい頬を流れ落ちる。スヴェンはその涙を彼の親指で拭って、
「私の家族や私ごときの心を思いやってくださって…、ありがとうございます。でも…、
私の心は変わりません。復讐を果たす、それまでです。」
そうリーゼの顔をさらに優しく愛おしい目で見つめるスヴェンは、リーゼの額に口づけして、
「私は、あなた様を…、心から愛しています。」
リーゼはその言葉を止めようとしたが、時すでに遅し…。
次の瞬間、リーゼは怒りに満ちた顔で彼を突き飛ばし、一気に魔力を上げる。
「あなたは、なんてことを…。紋章の運命が…。」
怒りで体を震わせながら呪文を唱えはじめ、急出力で魔力を上げたリーゼの周りの空気が一気に上昇し、熱を帯びる。




