暗闇の15年~闇の中の希望の光~
その言葉を聞いたリーゼは、体が硬直してしまい動けない。
「私はここにいてはならない存在。ラーニーとつながっているのですから。しかし…、もし私が今、ここを去りラーニー側に付いたら…、皆さんにとってかなりの痛手となるでしょう。リーゼ様に申し上げておりませんでしたが…、私もこの国の魔法をほぼ会得しているので…。」リーゼの顔から血の気が引いていく。
「しかし、安心してください。私はあなたと共に地下に幽閉される前、ラーニーと接触しましたが、その際、未来の世界の構図…、つまりラーニーと莉羽様の戦いが始まること、ましてやあなたが莉羽様側の使徒であることなど、知る由もなかった。その事はラーニーの誤算でした。」
「誤算?」
「そう、誤算です。」そう言うとスヴェンの表情が心なしか柔らかくなり、漂うオーラも突然、温かさを帯び始める。リーゼはその変化にすぐに気づき、
「スヴェン?」と声を漏らす。
「私には、自分で選択権のない未来が2つあります。ラーニーとの契約は済んでいるので…、おそらく自分の気持ち次第で、いつ洗脳が始まってもおかしくない状況です。そこで考え得る選択肢、その1つ目は…、私自身がこのまま抗うことなく洗脳により自我を失い、ラーニー側の道具となる。
2つ目は、洗脳が始まる前に死ぬ。のどちらかです。」
スヴェンはこう言うと、少し微笑んで、
「ここで彼の誤算がその野望の足かせとなります。」
「足かせ?」
「はい、そうです。」そう言って微笑みながらスヴェンは続ける。
「それは私があなたを…。」
「やめなさい!スヴェン!」リーゼが突然興奮しながら言葉を止める。
スヴェンは意味が分からない。リーゼはひどく動揺して、肩で息を吐きながら、何とか涙をこらえようとするが、それは無駄な抵抗だった。大粒の涙が溢れてくる。それを見たスヴェンがその涙を拭いながら、
「私の心が見えたのですね?」そう優しく語りかける。
リーゼは顔を上げ、ゆっくり頷く。スヴェンは一度納得したように、うんと頷き、
「15年、あなたが生まれてから今まで、私はあなたをずっと一番近くで見てきました。はじめはその境遇に憐みを感じながら、同時に自分の境遇を嘆きながら過ごしていましたが、あなたが寝返りを打ったり、つかまり立ちをしたり…、日に日に成長し…、歩けるようになった時、それは、それは、自分の境遇なんて忘れて心から喜びました。
あなたの誕生から今まで、あなたの成長を目の前で見てきた私は、「それ」を自分の生きがいにしてきました。
光の届かぬ地下でのほぼ2人きりの生活。
私は月に1度は地上に上がることができていましたが、あなたはそれが許されない中、15年間闇の中にいた。
でも…、それでもあなたは、光を失わず、それどころか、ますますあなた自身の内なる光を増していった。心は純粋なまま、汚されることなく、常に国の状況や民を思い、慈悲の心をもって、世界の平和を祈り続けていた。そんなあなたを、私はまさに聖女の生まれ変わりではないかと思うほどに…。
私が闇の生活を強制されたのが16の時。ちょうど成人を迎えたばかりの時でした。そんな大人になりたての未熟な私の元で、あなたはここまで成長され、その間私の生きる希望になった。そんなあなたを私が…。」
リーゼはそこでまた、スヴェンの口を塞ごうとする。その位置がスヴェンとは少しずれていた為、リーゼがベッドから落ちそうになるのをスヴェンが彼の太い腕で受け止め、そのままリーゼを抱きしめる。




