【第9夜③ ~騎士団長ロイの失踪と石の紛失~】
騎士団は、前騎士団長失踪事件、ハルトムート姉の拉致事件、国民の拉致事件の捜査、異国人の聴取等で、それぞれ分かれて捜査を進めていた。そんな中、今まで未開の地とされ、恐れられていた魔の山の麓に、前騎士団長の邸宅があるという疑惑が浮上したとのマグヌス率いる特殊部隊の報告が入る。
「団長、マグヌス隊長は、先に魔の山の調査に向かうとのことで、すでに向かっております。私たちは状況報告と、応援部隊の要請のために戻るよう指示を受け、ただいま戻りました。」
「わかった。ありがとう。しかし…、魔の山か…。また厄介なところに…。」ロイが頭を悩ませる。
「場所が場所だけに…、怪しさしかないな…。」フィンが呆れたように言う。
前騎士団長が騎士団を退くに至った経緯を知る人は、ここには誰1人としていなかった。現騎士団長のロイでさえ、知らされることなく突如騎士団長の命を受けたとのことだ。
「調べる必要があるな…。」ロイはボソッとつぶやく。近くにいたフィンには聞こえたのか、小さくうなずいていた。
そして時を同じくして、騎士団長ロイの母親が倒れたという知らせが入る。
「団長、団長のお母さまが倒れられたとの報告が入りました。」
「何?」ロイの表情が曇る。
「えっ?何があったの?」フィンが団員に聞くと、
「詳細は分かりません。ただそのように伝えてほしいとの事で…。」団員は少し困惑しているようだった。
「ロイ、大丈夫?」フィンが心配そうな顔で尋ねる。
「ああ…、とりあえず、その話はあとだ。まずは…、魔の山に応援部隊を送るとしても、魔の山の魔物相手では、王宮の騎士団では数が到底少なすぎる。各遠征部隊を1度集めてから乗り込む以外に策はない。私が魔の山の偵察を行っているマグヌスたちを一時撤退させる。偵察といえど、彼らだけでは危険すぎる。」
「ロイ1人で行くの?」フィンが驚いて言う。
「ああ、魔の山と私の村はそう遠くはない。母の様子も見てくる。フィンは魔の山に備えての全指揮を頼む。往復でも3日で帰ってこれるだろう。私はこのまますぐ出る。戻ってきたらすぐに出動だ。」
「わかった。1人で行くのは心配だけど、そういうことなら気を付けてね。母上も何でもなければいいけど…。後のことは任せて。」フィンは胸を張って見せる。
「ああ。」
そう言ってすぐにロイは王宮を後にした。あまりに早く、何の準備もない出動に皆、違和感を覚えるが、有能なロイの事だから何かしらの考えがあるのだろうと、誰も何も疑うことはなかった。
そして、それから丸3日経っても、騎士団長もマグヌスも王都に戻ってはこなかった。
「ロイはどうしたんだ。なぜ帰ってこない。帰ってこられないにしても、何かしら連絡手段はあるだろう…?」フィンが苛立って、傍にあった椅子を蹴り飛ばす。
「お兄ちゃん、落ち着いてよ。きっと何かイレギュラーなことが起きたのよ。もう少し待ちましょう。」アラベルは朝からフィンの怒りを鎮めるのに必死だ。
「副団長!」隊員が息を切らして入ってくる。
「どうした?」
「マグヌス隊長と隊員が…。」息が切れて思うように話せない団員。
「マグヌスたちがどうしたんだ?」
「何者かによって殺されました…。」
「…。」皆、衝撃の報告に声を発することができない。その報告に、持っていたティーカップを落とすフィン。
「あと…、団長一家も…、団長以外、何者かによって全員殺害されていたとのことです…。」隊員はそういうと自分が報告した事態の大きさに、ショックでその場に座り込む。
「そんな…。」おどろきのあまり倒れそうになるアラベル。すかさずフィンがそれを抱きかかえる。
「まさか…。」室内にそれぞれ声が漏れる。
「どうして…。」
「それでロイの行方は?」フィンは怒りに満ちた表情で問いただす。
「それが…、団長は確かにご実家を訪れてはいると近所の者が証言しています。そのあとの行方は…。」
座り込んだ団員は困惑しながらも声を張って話す。
「わからないのか…。なんだよ、ロイ。あいつ何やってんだよ…。」そのまま気を失ったアラベルをベッドに寝かせてから、悔しさで壁を叩くフィン。
そして、その日の夕刻、王室管理の多数の〈石〉が紛失していることが分かる。




