メルゼブルク王ハラール2世~命尽きる前に~
サイファの報告が終わってから、リーゼキャロルとスヴェンは、朔が寝ている時を見計らって、病床にある父メルゼブルク国王ハラールⅡ世を見舞う。
「お父様具合はいかがですか?」
「おお、リーゼか…。スヴェンも…。生きて戻れたんだな…。こうやって再会できたと思った矢先、また厳しい戦いを強いることになるなんて…。お前にどう謝ればいいか…。」
病状がさらに悪化し呼吸が続かないため、途切れ途切れに話す父の姿にリーゼは胸がいっぱいになる。父である王の力及ばずで、生まれてすぐに幽閉され、今の今まで会うことがなかった身とはいえ、父の命の火が今にも消えそうなこの状況に言葉を発せず、ただ手を握ることしかできない。
「これも私の持って生まれた運命だととらえております。ですから、私の事は気になさらず、ご自分のお体の事だけ、今はお考え下さい。ここに居れば皆さんの治癒の力で回復できるはずです。気を強くお持ちくださいね。」
リーゼは自分の過去の境遇を恨むことなく、父を心から心配し、労わる。
一方、生まれてこの方、人間としての尊厳を尊重されることなく生きてきた、純粋無垢なこの少女の人生を奪った自分に、恨み言を何一つ言わずに気遣うその様子に、自分がこの上なく醜悪な生き物に思えてならない王は、嗚咽交じりに泣き始める。
「お父様、泣かないでください。」そう言って、王の手を自分の頬に当てるリーゼ。
その白く柔らかな手とそのぬくもりに、さらに涙が溢れる王は、
「そなたを見ていると、王位を護るためにと自分のしてきた事があまりに罪深く、卑劣なものであったと思えてならない。この命が尽きる前に、その全てを詫びたいと思う。」
力なく話す父に、リーゼは言葉をかけることができない。そんな娘の様子を穏やかな目で見ながら、ゆっくりと口を開き話し始める国王ハラールⅡ世。
「これは今やこの国では私しか知らぬであろう話だ。この命もいつまでもつか分からぬ今、2度と聞くことは叶わぬやもしれぬ、心して聞くがよい。」
その言葉にリーゼはこれから語られる話がどれほど重要なものであるかを感じ、気を引き締めるのだった。




