夫として父として~家族の命を守りたい~
妻が私たちの寝室で知らない男と…。
なぜだ、なぜあんなに愛し合っていたのに…。
私は頭が真っ白になり、呆然自失の状態で家を出た。体中の血液が逆流しているかと感じるほど自分の体がコントロールできず、まるで螺旋階段を尋常ではない速さで下っているような目眩の中、何度も車のクラクションを鳴らされ、危うく轢かれそうになりながら私は見知らぬ土地の公園のベンチに寝そべり、夜を明かしたようだ。私は廃人と化した。それ以降私は家に帰ることができなかった…。
唯一ティアナのことだけは心残りだったが、妻と顔を合わせる自信がなかった。
私はこの裏切りを許すことができなかった。
そしてどうやってもその心を癒すことができなかった。
それから数か月、私は研究に没頭しながらも、ティアナの事だけはどうしても諦めきれない自分がいることに気づいた。そして、意を決して家に戻った。しかし、もともと意気地なしの私は、インターホンを押す勇気も出せず…、数か月が過ぎた。
それから世界情勢は悪化の一途をたどっていた。使うことはまずないと思われていた死の化学兵器の使用命令が下りたのだ。私は急いで家に手紙を送った。私の作った兵器に耐えうる装置、国家の首脳クラスの家族、親戚を守るために依頼されていた装置を、私と妻、娘の分も隠れて用意し、その隠し場所、使用手順の書かれた書類を同封し、家族の命を守るために父、夫として自分が出来得る最後で最大限の務めを果たそうと思った。
※※※
しかし、こうやって最愛の娘と再会を果たすことが出来たというのに…、なぜ妻はこの世にいない?私は妻の装置も準備した。それなのに…。ラルスがそう考えていると、
「パパ、ママの手紙読んであげてね。」笑顔のティアナが言う。
「わかったよ。」
そう言うとラルスは黙って読み始める。そこには、妻レティシアがラルスに宛てた後悔の念と愛の言葉が綴られていた。




