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愛を知る~愛の日々と裏切り~

 ところがある夜、妻が突然寝室に入ってきたのだ。


「隣にいていい?」


そうか細い声で問いかける彼女に言葉が詰まる私。


その日の首都は滅多にない程の激しい雷雨に見舞われていた。高層マンションの上層から見下ろすと、少し離れた辺り一帯が落雷で起きたと思われる停電により完全に闇と化していた。


 妻は少し体と声を震わせながら、部屋に入ってきた。その途端、部屋の外に閃光が走り、時を待たず轟音が轟く。それに驚いた妻が声にならない悲鳴を上げて私の背中に抱き付いてきた。そんな経験などない私はドキッとした。どうしていいか分からず、やめてくれと言おうと彼女の方を向くと、彼女は涙目で私を見ている。私はその表情に困惑したが、とりあえず彼女を安心させなければとその時の私は思ったようで、高鳴る心臓を何とか押さえながら、彼女を恐る恐る抱きしめた。


「大丈夫だ。落ち着け。」


 そう彼女に言葉をかけるが、今思えばそれは自分に言い聞かせていたようなものだったと思う。鼓動がさらに早く、強く打つ中で、私は何とか平静を装いながら彼女を抱きしめる。今にも心臓が飛び出してしまうのではないかとの心配をよそに…、突然、それまで私の胸の中にいた妻が、ベッドに座る私の前で膝をつき、私の首に腕を回し…、顔を赤らめながら私の唇に優しくキスをした。


 私は驚き目を見開く。しかし、その唇の柔らかさと温かさに、しばらくそのまま動くことが出来ずにいた…。彼女は私の頭を撫でながら、とろけそうな目つきで唇をゆっくり離す。私が瞬き一つできずに硬直していると、彼女は恥ずかしそうに、だが満足そうに微笑んでいる。彼女のその表情が、今まで封印してきた私が頑なに閉ざしてきた本能の扉を開くのは容易いことだった…ようだ。私は彼女の恥じらいながらもある意味挑戦的な表情に、体が震えるような感覚を覚え、再びその温かさと柔らかさ、それ以上が欲しくなり…。タガが外れた私は気付いた時には、自分から彼女の唇を、そして全てを求めに獣と化したのであった。


その時初めて私は人のぬくもりを感じ、結ばれる喜びと快感、その素晴らしさを知ったのだった。


それから私と妻が愛し合うのに時間はかからなかった。結婚してから今までの過ぎ去った時間を取り戻すように、妻と私はお互いを求め合った。


それまで食事中であっても必要以外の会話をしなかった私と妻は、それ以降いろんな話をした。たわいもない日常の会話。それすらしてこなかった私たちにとっては全てが新鮮だった。一緒にいながらも空白だった2人の心の隙間を埋めるように、家にいるときは常に隣で話をした。


 私は彼女を心から愛した。彼女は機械のような冷たい私の心に命を吹き込み、そして人間に生まれ変わらせてくれたのだ。


その写真を撮ったのはそれから2か月後の事だった。


本当に嬉しかった。


心から嬉しかった。


それは守るべき家族が増える喜びであふれた写真となった。


それからのというもの仕事への熱も高まり、家庭、妻への愛は惜しむことはなかった。妻も私のその思いを感じ、幸せだと言ってくれていた。


 そして待ちに待った最愛の娘、ティアナが生まれた。


この上ない幸せと喜びと人生の絶頂を味わった気分だった。家に帰ると子育てで疲れ果てた妻が、娘の隣で寝ている姿に愛おしさを感じた。抱っこしてくれとべそをかく娘の姿に必要とされている喜びを感じ、自分が父親なんだと改めて自覚する日々を過ごしていた。


 それが…、あの忌まわしい、あの日が、私の全てを壊した。それは上司からこの星の生物すべてを死滅させられる死の化学兵器の設計責任者の打診があり、意気消沈して帰宅した時の出来事だ。



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