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ラルス~敷かれたレールを…~

 そこには、ティアナを身籠ったと聞かされた時の喜びで満ち溢れた笑顔の自分の顔が写っている。それまで感情をあまり表に出さなかったラルスだったが、この時ばかりは喜びを体全体で表現していたようで、それに驚いた妻が、初めて撮った写真だった。


『あなた、そんな風に笑うのね。』


その言葉を発した妻の嬉しそうな笑顔を見たのも、その時が初めてだった。


 考えてみれば、自分は他の男と関係を持った妻を一方的に責めていたが、そんな資格があったのだろうかと、妻の笑顔を思い出し自問してみる。


 彼女は私の前ではあまり笑わなかった。そして自分も…。笑うこと以外の感情表現にしても自分は実に乏しい人間だったと今振り返り、気づかされる。


 物心ついた時には、両親に強制された勉強づけの毎日を送っていた。父は研究者、母は大学の教授。自分も当然のごとくエリートの道を歩むことが求められていた。

 幼少期はピアノ、絵画、乗馬、バイオリンをこなし、ティアナと同じくらいの年にはすでに毎日家庭教師に勉強を見てもらっていた。その当時、両親を尊敬していた私は、何の疑問もなく傍から見たら窮屈な日々を過ごしていた。むしろそうする事で成績上位を取り、自分のプライドを保っていたように感じる。自分は頭が良いと、自分に酔いしれていた自分に…。


 その為、両親の言うとおりに、両親に作られた道を歩んでいく事が幸せへの近道なんだと、勧められるがままに進学し、就職し、結婚した。そう、妻とはお見合い結婚だった。彼女の父は、私の父の研究に私的に巨額の資金援助をする大企業の社長であり、断る選択肢など初めからなかったのだった。


言われるがままの人生。


 そこに自我はあったのだろうか。そこに自分の意思はあったのだろうか…。


 両親が望むことが一番正しいといつの間にか自分に暗示をかけ、敷かれたレールを忠実に走ってきた。時にそれが本当に正しいのか悩んだ時期もあった…のかもしれない。でも結局は作られた道を進んだ。なぜなら、その道を進めば、両親との諍いもない、自分で考える面倒もない、全て楽だったからだ。それに気づいてからは、これが自ら選んで歩む道だと考えれば、何の迷いも煩わしさもなく生きることができた。


 そんな日常が崩れたのが、結婚だった。見ず知らずの女と家庭を作り、築き上げていく煩わしさに悩み苦しんだ。だから、全てを妻に任せた。自分は仕事さえしていればいいと…。朝起きて、仕事して、ご飯食べて、寝る。それだけの毎日。


それでいいと思っていた…。




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