手紙~家族それぞれの思い~
それぞれの戦場の情報共有をと集まった私たちだったが、同じころ、アースフィアを襲撃する魔物たちの数が格段に増え、巨大化したことにより、戦術の変更を余儀なくされ、いぜっきーから凱に応援要請が入り、一時中断となる。その間、それぞれ治療に専念したり、過去を共有して前を向こうと誓ったり、空白の時間を埋めることに努めたり…。思い思いの時間を過ごしていた。
そんな中、サイファとその双子の妹たちがヴァイマリア村の母親との再会を喜んでいた。しかし、ミディアだけは肩を落とし、申し訳なさそうな表情でうつむいている。その姿を見るなり駆け寄る母マーガレット。
「おかえり、ミディア。体は大丈夫?怪我はない?」そう言ってミディアの体を確認する母。そして続ける。
「怪我はなさそうね…、良かった。」胸をなでおろし、安堵の表情を見せたマーガレットは、それから娘の目を離すことなく話し始める。
「ずっと…ずっと、あなたの帰りを待っていたわ。私の愛おしい娘、ミディア。」母はそう言って涙を流しながらミディアをしっかりと抱きしめる。
泣き顔を滅多に見せない母のそんな姿を前に、目を潤ませたミディアが、
「お母さ~ん、うっ、うっ、…ほんとにごめんなさい…。私…、私は…。」次第に感情を高ぶらせて、泣きながら母に抱きつく。そんな幼い娘の姿に、
「謝らなければいけないのはお母さんの方よ。あなたの気持ちをしっかり受け止めているつもりでいたのに…全然気づけていなかった…。母親として失格だわ。ごめんなさい、ミディア…。」母はさらに強く抱きしめる。
「お母さ~ん。」泣きじゃくる娘の頭を何度も何度も撫でる母の表情は悔恨と安堵と喜びの表情で満ちていた。2人は号泣しながらしばらく抱き合い、お互いを思い合う。
※※※
そんな2人の様子を見て、穏やかに微笑んでいたサイファだったがある事を思い出し、
「ねえ、リディア。ミディアに渡すものがあるって言ってたよね?持っておいで。」2人の邪魔にならないようにひそひそとリディアに話しかける。
「あっ。そうそう。今、持ってくる!」そう言ってリディアは自分の部屋に急いで何かを取りに行く。
それから時間にして10分ほど、リディアが戻ってきたころには2人は落ち着きを取り戻し、ミディアは母が久しぶりに焼いてくれているバターたっぷりのベリーパイを椅子にちょこんと座って待っているところだった。
探し物に時間のかかったリディアは状況が読めず、サイファに尋ねる。
「もう、感動の再会に割り込んでも大丈夫かな?」変な所で大人な対応を見せるリディアの言葉に、驚いたサイファは絶句してから急に笑い出す。
「あははは、リディアって面白いねぇ。」あまりの驚きと面白さに極力笑いをこらえようとしていたサイファは笑い涙を拭いて続ける。
「ふふふ、もう大丈夫だよ。ミディアにリディアの思いが伝わる様に心を込めて渡してごらん。」サイファの笑いと涙の意味は全く分からず不思議そうな顔をしていたリディアだったが、サイファの言葉に素直に頷くとゆっくりミディアの方に歩いていく。そして、
「ミディア。これ、私とお父さん、お母さんで書いた手紙なんだけど…読んで欲しいの。」受け取ってくれるか不安なのか、上目遣いで少しもじもじしながら、リディアはミディアの自分と同じ12歳の誕生日に渡すはずだった手紙を渡す。
ミディアは少し驚いてその手紙をじっと見てから、ちょっと恥ずかしそうに黙って受け取り、それを読み始める。ミディアは始めこそ、その書かれた内容に笑っていたものの、読んでいくにつれて、口を抑えて、涙が溢れるのをこらえているようだった。




