兄弟~母への怨念から繋がる思い~
「何だと?おい、お前…、朔にも手をかけたのか?」ラーニーは母を睨む。
「そんなわけないじゃない…なっ、何言ってるのよ。」震えながらなんとか言葉を発する母。
「ねえ、みんな見てみたい?この女がどれほどくそなのか…。僕がいたぶられて心が崩壊していくのも見れるよ。はははははは。はははははは。」
狂ったように笑いながら朔は力を使ってそのイメージをそこにいる全員に送ろうと念じ始めた。それと同時に朔から発せられるオーラが一気に黒に染められていくのが見える。その朔の姿を見て、
「朔のオーラが、ラーニーと触れて邪悪に満ち溢れている。こっちに帰ってこれなくなっちゃう…。」私は最悪な未来を察し、大声を出す。
「だめだ。朔の結界が強すぎてこちらからの念を一切受け付けない。」凱は朔をこちらに戻そうと試みるが朔の邪悪な念がそれに勝っている。
「闇に飲み込まれるのも時間の問題だ…。」私と凱が朔を正気に戻そうと苦闘していると、朔の念じていたイメージが流れてくる。
朔が母親から受けていた虐待の数々。身体的、性的、心理的…それは朔がまだ言葉も話せない幼少のころから始まった。泣き叫ぶ朔の顔と声。
「やめて。私はそんなことしていない…。」母はどうにかそのイメージを消すよう念じるが朔が阻止する。
「どの口が言うのかね~。よく見てよ。ぼくはあんただけじゃない。」
「何?」と母が言うと、母がいない時を見計らって、父親が朔に虐待をしているイメージが流れる。
「そんな…、烈さん…。」母はショックで膝から崩れ落ちる。
「お前ら2人して、この僕を…。」朔は唇を噛んで悪の形相で母を見ている。その惨劇を目の当たりにした兄であるラーニーは、
「ははは。お前はどこまでもくそだなあ。まさか、朔にまで手を…。朔、俺たちは同志ってことか…。」母を蹴飛ばしそう言うと、朔も母の顔を足で踏みつける。
「あんたと一緒にはされたくないや。でも、次にやろうとしていることは同じかもね…。」ニヤッと笑って言う。
「ふん、殺してやりたい気持ちはよく分かるが、殺すなよ。こいつはくそでも私の目的には必要だからな…。」
ラーニーは自分を虐待し、見捨てた母を自分の手で殺してやりたいとの衝動に何度も駆られていたが、自分の目的を果たす為12支人の1人としてどうしても不可欠な存在である事を自分に言い聞かせ、それを抑える。その皮肉な運命を呪いながら、自分と同じように虐待を受けていた弟がとことん痛めつけることを期待せずにはいられなかった。




