【途切れた糸口】
この、言いようのない不安、疑念を、今までの関係だったら絶対に、凱に相談していただろう。でもその凱にはもう頼れない…。とはいえ、もう1人では抱えきれないほどに事は大きくなっている。
『お母さんに話してみよう。馬鹿なこと言ってるんだからって言われれば、気も楽になるだろうし…』
私はそう決意しリビングに向かう。
下りていくと、帰ってきたはずの父の姿はもうそこにはなく、母がニュースを見ていた。私が下りてきたのに気づくと母はテレビを消す。
「莉羽…。もう大丈夫なの?」すごく曖昧な聞き方だ。先の短い莉奈の為とはいえ、もう1人の娘の気持ちを犠牲にした罪悪感からか、顔にいつもの笑みがない。
「うん。何とかね…。」引きつった笑顔でごまかす。
「お父さんはもう仕事に行ったの?」
「ええ。会社でトラブルがあったみたいでさっき出たのよ。」
「そうなんだ…。」
父は数年前から単身赴任をしている。帰ってきても月に1度くらい。莉奈の体調が悪化したときは真っ先に帰ってくるが、それ以外はなかなか帰って来れていない。
そんな父が、莉奈が目覚めない状況で仕事に戻るのは今までになかったことだ。おそらく相当なトラブルが起きたに違いない。
「こんなこと、今までなかったよね?お父さんの会社、大丈夫かな?」
「本当に…、莉奈が目覚めないのに…。お父さんもそんな状況で戻らなければならないなんて…、辛いはずだわ…。」
「そうだね…。」莉奈の病状、父の思い、私の心情を考えると、母にとってこの場に応じた言葉を見つけるのが難しいのも理解できる。無言のまま時が過ぎる。
しばらくして、母が別の番組にかえると、例の拉致事件のニュースが始まる。被害は増える一方のようだ。私は意を決し、心の内を話し出す。
※※※
全てを話し終えると、
「莉羽の想像力も豊かね。聞いていて、すごくわくわくしちゃったわ。でも…、なるほどねぇ…、そう考えると夢と現実で起きたことのつじつまが合う気がするけど…、実際にそんなこと起きるかしら?小説とか映画の中の話ならあり得るけど…。」
「そうなんだよね…。あまりにおかしなことばかり起きてるし、夢があまりにリアルすぎて…。」
「あんまり深く考えないで。高校に入ってまだ間もないから、気持ちも落ち着かないし、きっと疲れがたまってるのよ。ねっ。プリン買ってきたから食べたら?莉羽、最近食欲ないでしょ。」
やっぱり私の突拍子もない話には普通はこういうリアクションだよね、と思いながら、
「ん~。実際にそんなことあるわけないって確かに思うんだけど…。私の頭がおかしいのかな…。」
と、プリンを一口食べると、目の前が突如ぐるぐる回り始め、睡魔に襲われる。
『ああ、眠い。突然こんな…。私ったら…、どうしたんだろう…』と思っていると、誰かが部屋に入ってくる。
その人物に母が、
「まだ、受け入れるには早すぎるわね。消しましょう。」と話しかけるのが聞こえる。
「すみません。計画にないことをして…。」短い会話が聞える。
私はその声の主が誰なのか分からないまま、再び眠りにつく。