朔~閉ざした心の解放~
「あんたが僕の兄だなんて…。」
目の前に立つ破壊神ラーニーを見て思わず言葉を漏らす朔。
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朔が我が家に来てから、両親からの虐待の疑いがあるとして、朔の心のケアを任せてほしいと申し出たリーゼキャロルと共に、私は朔とコミュニケーションを取るように努めてきた。
始めはなかなか話をしようとしても、長期にわたる虐待のせいか、内にこもってしまうことが多く、話しかけても応じることが無かった朔だったが、リーゼの根気強い働きかけで、日々少しずつ心の内を話し始めるようになり、笑顔も徐々に見えるようになってきた。
仲間たちの中でも、そんな朔にどうやって接していいか分からない雰囲気はあったものの、最近ではほとんどの仲間と話ができるようになってきた。
朔が仲間に心を許すようになってから、彼の家にあった「石」の件について聞いてみたが、朔自身もよく分からないようで、気付いたら家にあったと話していた。しかし、力なき者の家に「石」があるはずはないだろうと考えた世話好きな玄人とフィンは、おそらく朔も何かしらの力を持っているに違いないと、エルフリーデとリーゼの助言を受けながら朔の訓練に付き合い、先日その力の解放を見たところだった。
その直後、自分の力に驚いた朔だったが、日に日にその力に目覚め、今では仲間の中でも上位の能力を発揮できるようになってきていた。だが、その力の解放に、大きく影響を与えたのは、残念ながら玄人とフィンではなく、自分を一番気にかけてくれていると朔自身が感じていたリーゼキャロルだった。
力の解放を見た時も、一番に喜び、一番ほめてくれたのはリーゼで、親の愛情に飢えていた朔にとって、リーゼの存在はとても大きなものになっていた。リーゼ自身もそれに気づき、その力がいずれ、ラーニーとの決戦に必要になる事を見越し、自分の対応を考えていたようだった。それが実を結んだ結果だったと言える。
彼にとって、我が家での仲間たちとの生活は、本当の家族よりも本物の家族らしい生活で、仲間たちからの愛情と支えを常に感じる、今まで経験したことのないほどの幸せなものだった。その為、私たちが常に掲げる、対ラーニーの意識を当然朔も持つようになり、ラーニー=敵の考えはごく当たり前のものとなっていた。




