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ナータン最期の日~妻の記憶~

それはナータン最期の日のラルスの妻の記憶であった。


【その日、ナータンは絶望の日を迎えていた。私はラルスからの手紙にあった通り、対化学兵器を収納している地下施設に向かうため、車を走らせる。


 この非常事態においてもラルスからの連絡は来ない。その時彼はこの国の最高機関、兵器開発の責任者であり、この不穏な政界情勢の中、ましてや不貞を働いた私に連絡してくるはずなど無いと思いながらも、淡い期待を持っている、そんな自分に嫌気がさす。


 私は不安で仕方なかった。私1人で、その装置を動かすことができるのだろうか…。そしてバックミラーに映る天使のような笑顔で私を見る、この最愛の娘を護れるのだろうか…。そんな心境の中、その施設に到着する。


 私はすぐさま私と娘ティアナの為に、夫ラルスが用意してくれた装置を準備するが、その内1台がどうやっても起動しない。ラルスから、史上最悪と言われる化学兵器、人類を滅ぼすほどの力を持つその兵器の発動の連絡を受けたその時間は刻一刻と迫る。

 

 私は1人、時間との戦いに焦りと不安を感じながら、必死でその1台を起動させようとするが…。先日起きた地震の影響なのか、装置の下部に亀裂を見つける。ここまでか…と天を仰ぐ。その目には涙が溢れる。しかし、時間は無情にも過ぎていく。気持ちを切り替え、もう1台の起動を試みる。機械音痴の私のために、細かい手順が書かれており、補足においてはさらに細かく手書きで用意してくれたこの説明書を見ながら、彼の思いを感じ自然に涙がこぼれる。


「ラルス…。」その説明書を胸に当てしっかりと抱きしめて、


「あなたの思いを無駄にはさせない。必ずティアナを未来に届けるわ。」


 そう言うと、自らを奮い立たせるように両手で頬をパシッと叩き、


「よし!」と気合を入れてその装置の起動に挑む。


 しばらくすると装置は無事、正常に動き始める。安堵した私は大きく息を吸って、おもちゃで遊ぶティアナを抱きしめて、


「神のご加護を…。」そう言って、ティアナを装置に入れ、最後のキスをする。


「私たちのティアナ。あなたは私たちの宝物。パパが用意してくれたこの機械に入っていれば、大丈夫。独りぼっちじゃない。目覚めた時には新しい世界があなたを待っているわ。そして私たち家族3人、次の世でまた会えることを…。ああ、ティアナ。」


 話しかける私に、まだ話すことのできないティアナはおもちゃで遊びながら無邪気ににっこり笑う。そして私は泣きながら、その装置の中にティアナの思い出の詰まった宝箱を一緒に入れ込む。


 そして装置のスイッチを抱きしめ、ティアナの無事を祈る。それと同時にテレビで化学兵器の発動が報道される。私は慌ててスイッチを押す。


 ゆっくりと作動し、地中に向かう装置を見守る私はその場に泣き崩れる。


そしてその施設の頑強で幾重にも重なる扉が閉まる。】


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