【第8夜⑥ ~打ちまける本音と結婚への決意~】
晩餐が終わり、私は部屋に戻り一息つくと、
【コンコン】とドアをたたく音がする。
「お待ちください。」と言ってヴァランティーヌがドアを開けると、一番会いたくない凱の姿がそこにはあった。
「今、よろしいでしょうか?」そう話しかける凱の麗しい姿に、ヴァランティーヌはメロメロ口調で、
「はい、もちろんでございますが…。どのようなご用件で?」と尋ねると、
「姫様にお伝えせねばならぬことがありまして…。」と言葉を濁すと、察したヴァランティーヌは、
「私は外しますね。」と言い残し、部屋を出て行く。
部屋に残された私は凱にかける言葉が見つからない。
「…。」沈黙で重苦しい室内。突然思い立ったように凱が、
「莉羽。迷っているのか?」と切り出す。
「突然、何?」この状況で迷うといったら結婚の話題しかないと察しがついた私は、現実での凱との一件と夢が混同していることを理解しながらも、怒りが即座に頂点に達して、喧嘩口調で凱に問う。
「話すことは、もうないと思うけど…。」凱はそんな私の心情などお構いなしに続ける。
「あの皇子の気持ちに嘘偽りはない。だから、早急に結婚を心から承諾してほしいんだ…。」
一番会いたくない人の口から発せられた、一番言ってほしくない言葉。
「突然現れたと思ったら、そんなこと言いに来たの?」私は完全にキレて声を荒らげる。
【少しでも、『皇子と結婚するな!俺がいるだろう』と言ってくれることを望んでいる、そんな自分がばからしい。】
怒りはさらにヒートアップし、
「ほんとに勝手に何、言ってるのよ。こんな話をあなたにしても、どうにもならないし、あなたにとってはわけがわからない話でしょうけど、私、昨日から、気持ちの振れ幅が大きすぎて情緒不安定なの。だから、なんでも言うわよ。これをあなたに言ったら、ちゃんと皇子に返事をしにいくから我慢して聞いてちょうだい!」怒りのあまり、私は自分を止められない。夢の中だし、この際思ってることを何でも全部ぶちまけようと勢いに乗って、また話始める。
「私はね、昨日失恋したの。その人のこと、ものすごく好きだった。でも、どうしても諦めなくちゃいけない状況だったし、その人も結局は私を選んでくれなかった…。胸が苦しくてどうしようもなくて、その人の事を思って何日も眠れない夜もあった。でもこんなに思っても、その思いは叶わなかったの…。
人を好きになるとか、そういうの初めてで…、その上初めての恋が破れて、こうやって話してるのだって辛いっていうのに…。
そんな私に結婚を承諾しろって?ふざけないでよ。しかも結婚相手は、私のことめちゃめちゃ大好きで、すごく私を大切にしてくれようと心から思ってくれる人…。でも私はこんな気持ちのまま…。そんな状況で結婚するなんてできない!今の私には無理なの!
でも…、私はこの国の姫で、国と民の平和を約束しなければならないのは分かってる。
だから…、だから…、今から行くから、もう行くから…。あなたは余計な事言わないで!この部屋を出て行って!そしてもう私の前に現れないで…。」怒りに声が震える。
叫ぶように、私が本音を打ちまける常軌を逸した様子を見た凱は、
「莉羽…、お前の言わんとすることは分かってる。でも…こうするしかないんだ…。この星の為に…そう決心してくれてありがとう…。俺にはこれしか言えない。お前と皇子のことは俺が必ず守るから…。」
言葉にならない怒りで、心が今にも爆発しそうな私は、凱の顔をにらみつけ、
「何それ…。守るって何?意味わかんない。とりあえず早く出て行ってよ!」凱は無言で部屋を出る。
私の怒りはしばらく収まるはずがなく、泣きわめき、怒りで力尽きた私はそのまま眠りにつく。




