ラーニーとクラウディス~【はこ】となるもの~
『私は一体何なのだ。私は生まれてきてはいけなかったのか。私は好きでこうなったわけではない。王位継承争いによって、自我を壊された私の何が悪いのだ。私は何か間違いを犯したのか?
私も平民の子供たち同様、毎日笑顔で暮らしていたかった。それなのに、その笑顔を奪ったのは、お前たちではなかったのか?』
胸がどうにも苦しくて、今にもここからいなくなりたい気持ちで天井を見上げ、絶望を感じるクラウディス。
『私の味方は誰一人としていない。私の理解者であると思っていた莉羽も私を疎んでいたなんて…。乳母や側近たちの、私に対する悲観の声は少なからず感じてはいた。でもまさか、莉羽まで…。
ああ、そうか、凱が悪いのか…。凱が生まれたから…、私は全て失ったんだ。凱が生まれてこなければ、私の命が狙われることもなかった。凱と比べられることもなかった。莉羽が私だけを見てくれたかもしれない。そうだ…。凱だ。悪いのは全部、全部凱なんだ。私はちっとも悪くない。そう、私は悪くないんだ。
凱がいなくなれば…、私は皆から、崇められる。唯一無二の王として。そうに違いない。そしてそんな私に莉羽の心も…、そうだ、間違いない。なんだ、簡単な事だ、ふはははははははははははははは。』
洗脳の際、この過去の映像を何度も何度も見せることによって、ラーニーはクラウディスの心をどん底に突き落とし、そして負の感情を爆発させてきた。
この映像を初めて見せられた時、クラウディスはしばらくその場に座り込んでいたが、引き寄せられるかのようにふらふらと、メルゼブルク城の中で最高の高さを誇る、地上700mの塔の頂上に向かって歩いていった。途中何度も階段から転げ落ちそうになるが、何とか登り切ったその先にいたのがラーニー、その人だった。
クラウディスが顔を見上げ、ラーニーの顔を直視した時、彼の脳内ではこの映像と、愚王の言葉がループしていた。
【愚王】
【愚王】
そうののしる貴族、従者、乳母の顔が次々に現れては消え、現れては消えを切り返す。
その映像から生きる気力を失ったクラウディスという良き【はこ】を、ラーニーはこの日、見つけることになった。
※※※
その日を境にクラウディスは変わった。とても明るく、積極的に多くの貴族たちとコミュニケーションをとるようになり、魔法習得にも国政にも関心を持つようになった。その反面、私への求愛はより積極的に、そして、凱へのけん制は激しくなり、いよいよ王位継承に向けて本格的に動き始めたのだと、特に第二皇子派の動きがより活発になっていった。必然的に、連動して第一皇子派の動きも活発化し、一触即発のような状況になる。
平和そうに見える王宮界隈で不審な死を遂げるものが後を絶たず、不穏な空気が流れ始めたのもちょうどこの頃であり、ハラール2世の体調も悪化し始めたのもそうであった。全ての事が、マイナスの方向に向かい始めたのは、クラウディス、ラーニーの初接触が引き金となっていた。
クラウディスは自らの負の感情により、ラーニーという史上最凶な悪の神、破壊神の意のままに動くこととなり、再び強力な洗脳により、新たな力を得ることになる。




