愚王と呼ばれる屈辱~堕ちたプライド~
ラーニーの洗脳を受けるクラウディスの脳内では彼にとっては耐え難い過去の映像が流れていた。
時は1年前、王宮の一室において、父であるメルディスティアードに呼ばれた私の姿があった。いつものごとく私に会いに来たクラウディスは、私と父の様子にただならぬ雰囲気をこの時ばかりは感じたのか、隠れて盗み聞きをしている。
「まあ、いつもの話になるが…。」父は普段何事においても饒舌に話す人であったが、この話題に関してはそうはいかないようで、言葉を濁す。私と言えば、ああ、はいはいと言った感じで、
「またその話?分かってるって…。そうしなくちゃいけないことも、そうする事がこの国の平和を維持する唯一の方法だってことも…、私に拒否権がないことも…。」私は半ば投げやりに話している。そんな私を気遣うように、
「まあ、そんな言い方をするんでない。そなたの気持ちは重々承知してはいる。でも…、これはどうやっても抗えない事なのだよ。」困ったように話す父。
「そんな私を気遣うような言い方するけれど、お父様はそうなるようにと陰で手回ししてるじゃない。」
父は困ったように私の言葉に頭を抱えるが、
「お前がこの国始まって以来の愚王と呼ばれるであろう皇子と結ばれることに、抵抗がある事はよく分かっておる。どこもかしこも…、新たな魔法を次々習得し、また生み出そうとする前向きな姿勢、加えて国政にも関心をもって貴族間との交流も積極的に行っている第二皇子の話題で持ちきりであることも分かってはおる…。
しかし、王のたっての希望なのだよ…。第一皇子に王位を継承することは…。その場合、魔法にも国政にも、貴族を束ねる統率力をも考えた上で、そなた以外の候補は上がらないのだよ…。もちろん、わが家門の事もあるが…、これが王宮内、貴族、国民全ての者たちの思いだ。この国のためと理解してほしい。そなたが我慢してくれさえすれば…、この国は安泰なのだ。」
その言葉を聞いたクラウディスは、なんとも言えない無気力感に襲われ、その場に立っていることができずにしゃがみ込む。涙が頬を伝うのを感じる。




