人間不信~クラウディスの苦悩~
その事件がきっかけで、クラウディスは人間不信に陥り、完全に乳母以外の人間を受け付けず、部屋にこもることが多くなった。その間の王宮主催の式典等は、第二皇子の凱が代わりに出席し、ますます居場所を狭める状況になってしまった。
そこで、父であるハラール2世が、次期国王ともなる者が、これしきの事で塞ぎこむのは致命的であると、その治療として私を送り込む。同じ年齢ほどの女の子であれば、抵抗なく話し相手になるだろうと、そこから徐々に人に対する抵抗を払拭していければと考えたのだ。ハラール2世の功績で後世に残せるものは皆無と言って等しいが、この策だけは評するに値すると言っても過言ではない。
子供である私は、クラウディスの周りにうろついていた汚い大人たちと違って、純粋で素直で…、クラウディスにはとても綺麗な存在に思えたのだろう。また私は私で、父から次期王妃になる事を見据えて行動するようにと、口うるさく言われていたものの、そんな打算など一切関係なくクラウディスに接していた。クラウディスは、私の周りには間違っても存在し得ないタイプの人間で、その特異な反応に私は面白みを感じていたので、なんの苦痛もなかった。
私が王宮に送り込まれてからというもの、それまで暗闇の住人だったクラウディスにとっては明るく、楽しい日々が続くことになる。凱が私たちに加わり、クラウディス自身が私への好意に気付くまでは…のかなり限定された期間だけではあったが。
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その日が来るまで私とクラウディス、凱は、兄妹のように毎日同じ時間を共有した。その後加わった莉奈は体が弱いこともあって、さほど関わることはなく、子供時代の思い出は3人のものが多い。
そんな生活の中で、クラウディスはどうやら私の天真爛漫さ、屈託のない笑顔に癒され、私に好意を持ったと後に侍女に聞かされる。だがそんな私は、クラウディスの私への恋心などつゆ知らず、弟の凱とも同じように仲良くしていたので、クラウディスとしてはまるで自分の所有物を取られたような感覚で、嫉妬心をむき出しにし、私との婚約を国王に要求したり、しまいにはストーカーまがいの事をし始める。
ラーニーの洗脳の中でクラウディスの脳内に映し出される映像は、特に彼を苦しめた過去の出来事だった。これが何度も何度も映し出される状況に、彼の心は抜け出すことのできない嫉妬と妬みの渦の中で、もがき苦しみ、そして力尽きたと同時に負の能力の解放を果たし、破壊神の右腕の地位を得ることになった。




