兄妹~美しき妹~
エデンの入り口を入り、正面の神殿に向かう石畳の通路の両サイドに、本来なら陽の光を反射して虹色に輝く水面が美しい泉が広がるはずが、今現在のこの神殿の主の怨恨の深さゆえか、曇天の空の元、泉も淀んでいるように見える。
「ここは…、本当にエデンなのか?」凱は眉間にしわを寄せ考えている。
その泉のそれぞれ中央にあるガゼボから現れたクラウディスは、見たことのない美しい少女と従者に目を引かれていた。
「おい、その少女はそっちの12使徒の新入りか?」先ほどまでラーニーに失態の責任を追及されていたクラウディスが、その反対側のガゼボから出てきた凱に尋ねるが、
「…。」凱は真実を自分の口から伝えたくない為、あえて無視を決め込む。その態度に違和感を覚えたクラウディスは、
「なんなんだ。無性に腹が立つ。口を開きたくないのなら、その口、2度と開けなくようにしてやる、覚悟しろ凱!」そう言い放つと、美しき少女リーゼロッテが自ら、
「初めまして、お兄様。」と、あえてにこっと天使のように微笑みかける。そのあまりの美しさと可憐な姿にクラウディスは少し動揺して、声が柔らかくなる。
「なんだ?お兄様?というのは…。私の聞き間違いか?」首をかしげながら独り言を言う姿は、傍目で見ていると滑稽である。
「いえ、お兄様は、私のお兄様です。私はあなたの妹なのです。お兄様。」純粋無垢な妹は訴えるように話すが、クラウディスは全く理解できない。
リーゼロッテが生まれた時、クラウディスは3歳、凱は2歳であったため、覚えているはずもないのだが、あまりに兄の戸惑う姿が可愛らしかった(リーゼ後日談)のため、リーゼロッテは少しからかってみたのだった。
クラウディスは、いまだ状況が把握できず、記憶をたどり、頭をひねっている。
「やはり分からぬ。そなたは何を企んでいる?」そう聞くクラウディスの心層に、メルゼブルク王により今まで消し去られていた、遠い記憶を流し込む凱。




