ヴァランティーヌ~その過去①~
ミディアを取り戻したリディアとサイファは戦場から離脱し、一旦アースフィアの我が家に飛ぶ。
戦場では残されたヴァランティーヌとコンラードは一触即発の緊張状態であったが、ヴァランティーヌの舌打ちが開戦の号令のごとく、戦闘が始まる。
「ミディア…、なんともまぁ、情けないったらありゃしない…。」ヴァランティーヌは吐き捨てるように言う。すると、コンラードが、
「情けない?果たしてそうかな…?じゃあ、君はどうしてラーニーに心を奪われたんだ?そんな君も情けなく俺には見えるがな…。」コンラードが挑発する。
「奪われ…た?何をほざく、この老いぼれが…。」ヴァランティーヌは少し動揺を見せながらも、口撃Gを止めることはない。
「じゃあ質問を変えよう。君はファータ国王と…。」コンラードが途中まで言うと、ヴァランティーヌは、はっとして、コンラードを睨みつけながら、
「国王の話はするな。」と言うなり、炎の術で攻撃を仕掛ける。
「ファータ王について言及されると…、何か不都合でも…?」それを笑ってかわすコンラード。
「死んだ人の話だ。」ヴァランティーヌの表情が曇る。
「国王に助けられたのに、君が国王を見殺しにしたからか?」コンラードの立て続けの挑発に、我慢の糸が切れたのか、
「何を適当な事を…。」怒りのあまり、殺気立ったヴァランティーヌは攻撃を強める。
「図星か…。」コンラードはニヤッと笑う。
「鎌をかけたのか…。あんたに何がわかる。」ヴァランティーヌは唇を噛む。
「そうだな…俺がお前の事で知っているのは…お前が王宮に来てから、今までの事かな?」コンラードはニヤッと笑い続ける。
「ヴァランティーヌ、お前は両親を不慮の事故で亡くした。その事故の原因を作ってしまった国王は、子宝に恵まれなかったこともあり、まだ少女だった君を自分の子供のように扱った。公にはしなかったが王宮の奥の人間たちは、その愛情の深さを異常に感じるほどだったらしいな。
しかし、それを知った王妃の実父である前国王は、それをよく思わず、王の側に不妊の原因があると王宮内に噂を流した。原因が何なのかわからないというのに…。さらに前国王は、王位継承者を自分の血を引き継いだ者にしたいが為に、公に国王の代わりの種馬となる高度な異能の才のある男を何人も自分の娘に当てがっていた。一夫一婦制のこの国では、王族であっても例外は許されないはずなのに…。
王妃はそれを拒んでいたようだったが、王はそうとも知らずに激高していた。しかし、その当時側近であった私にしか、その怒れる姿を見せることはなかったようだ。
そんな国王だったが、時が経つにつれ、我慢の限界が来たのだろう。国王は王妃に暴力を振るうようになった。毎夜毎夜、事が済むと暴力をふるい、そんな状況を嘆いた王妃は心身ともに弱っていった。そんな中、王妃は子を身籠る。はじめは自分以外の男の子供ではないかと疑っていた国王だったが、自分の子であると分かると王妃への暴力が無くなっていった。
がしかし、生まれた子が女の子とわかると再び王は、妻への暴力を始めたのだ。それに耐えかねた王妃はとうとう気がふれて、王宮の塔から身を投げることになる。まだ生まれて間もない乳飲み子の莉羽を残して…。
しかし、この王妃の死には不審な点が多い。この王妃の投身自殺の3年前に、前国王が不審な死を遂げていたが、この王妃の不審な死を目の当たりにした王兵団の中では、国王が王妃と前国王を殺めたのではという疑惑が広まってしまっていた。不妊の原因を、一方的に自分のせいと広められ、自分の妻に男をあてがう非道な前国王への憎悪は想像以上のものがあっただろうと、容易に想像できる状況がその当時にはあったからな。恨んでも恨み切れないほどの強い思い…があっただろうなと…。




