愛しき許嫁~ロイ、その過去~
身を挺してまで、敵である自分を護ろうとしたアラベルを胸に抱いたロイの頭に、遠い昔のある記憶が蘇る。その血まみれのアラベルの姿が、数年前、家に押し入ってきた強盗に殺された、ロイの許嫁の最期と重なり、その記憶を呼び起こしたのだった。ロイの顔がみるみる青ざめていくのが分かる。額から汗が滲み、わずかながら体を震わせ、無意識に言葉を漏らすロイ。
「ソニ…ア。」
※※※
「ロイ、私の分まで幸せになって…愛してる。」
彼女はそう言い残しこの世を去った。将来を約束した恋人。自分の手で幸せにすると誓ったその夜、彼女は微笑みながら自分を残して逝ってしまった…。彼女の最期の悲しみで溢れた微笑みを今でも忘れる事が出来ないロイの頬を涙が一筋流れる。
「ソニア…。」
そして、現実に引き戻されたロイは状況を改めて把握し、妹のように可愛がってきたアラベルを強く抱きしめ合がら、
「アラベル!アラベル!死ぬな!」
そう叫びながら、アラベルに必死で回復魔法を施す。フィンはそのロイの様子に驚き、ロイの目を見る。そしてその顔から邪気が無くなっていることに気づく。
「ロイ兄?」
「フィン…。」
ロイはまるで洗脳が解けたかのように、元の優しい目に涙をたたえ、フィンを見て答える。それと同時に、先ほどまで周りを囲んでいた魔物たちの姿も消えていることに気付く。
その状況を理解したエドヴァルドがロイに近づき、
「ラーニーの呪縛が解けたようですね。アラベルさんをここに。」ロイに促すと、洗脳が解けた元騎士団長は、アラベルを草の上に寝かせる。
「この傷は回復魔法ではどうにもなりません。私の力で呼び覚ましてみます。彼女はまだ遠くには逝っていない。」そう言うとエドヴァルドは静かに祈りに入る。
「アラベル…。」
フィンとロイは大切な妹の命をエドヴァルドに託す事しか出来ず、焦りと不安に飲み込まれそうになっていた。




