破壊神①~その過去~
私はその夜、夢の中で夢を見る。その夢の中で1人の少年に会う。初めて見るその少年の正体は夢を見終わって気付くことになるが、こんなにも苦しい思いを抱えることになるとは…。この時は微塵にも思っていなかった。
「どうして泣いてるの?」私の問いかけに顔をあげる少年。しばらくするとまた下を向き泣き始める。その姿に、私はいたたまれない気持ちになってその少年をそっと抱きしめる。突然抱きしめられたことに驚く少年は、私を突き放すものの、私がまた抱き寄せると温かい胸の心地よさにそのまま包まれ、その中で静かに目を閉じる。
私もその少年の様子を見て、少し安心して目を瞑ると、突然脳内にある映像が映し出される。
【何かに苛立ちながら男が大きなため息をつく。それに気づいた莉奈がその男に尋ねる。
「どうされました?」男は玉座のような煌びやかな椅子に座り、今度は疲れたような表情で天井を仰いで目を瞑る。
「ん~。なぜあの女が12支人なんだ…。理解できぬ。」男の苛立ちはマックスのようだ。目を開け、莉奈を見て自分の膝を指さす。すると莉奈はその男の方に近づき、
「あの10番目の…ですか?」と聞きながら、男の傍のテーブルの上の酒を一口で飲み干す。
「あの女は…。くそっ。」男は悔しそうにしながら舌打ちをして、莉奈の腕をつかむ。男に掴まれた腕に、莉奈はもう片方の手を添えて諭すように、
「あなた様の目的のためには必要ということではないのですか?」と、お酒が入ったからか、いつもの清純な雰囲気から一転して、妖艶な雰囲気を漂わす莉奈が答え、その男の膝の上に座る。すると、男は満足そうに莉奈を抱え、ベッドに押し倒す。
そこから場面が移される。私の胸の中で泣き続ける少年の面影を残す、先ほどの男、破壊神の過去と思われる映像が私の脳内に映し出され、私は破壊神ラーニーの過去を知ることになる。
あの女…莉奈が10番目と呼ぶあの女は、私のことが邪魔でしかたなかった。それはあの女の最愛の夫である私の父が、私を守るために命を落としたことから始まった。不慮の事故だった。しかし、父を心から愛していた母は、そこから立ち直ることができず、父が死んだことを私のせいだと思うことで精神のバランスを保っていた。
「あんたなんか生まれてこなければよかったんだ。そうすれば、あの人を失わずに済んだのに…。全てお前が生まれてきたからだ。」あの女…私の実の母から何度となく浴びせられたその言葉。まだ幼き私はその度、心が壊れそうになっていた。母はその後、酒におぼれ、そして父の代わりを探して…、男に溺れていった。
毎晩のように男をとっかえひっかえ、家に連れ込んでは、
「私には愛が必要だ。男の愛なしに生きてはいけない。お前がいなければもっと…。なんで生まれてきたんだ。」と酒に飲まれた母に罵られる。
物心つくようになってから、私は実の母であるこの女が嫌いだと認識する。毎日のように罵倒を浴びせられ、暴力を振るわれ、生きていることを全否定される。何のために生きているのか、自分はなぜこの世に生まれてきたのか、そんなことばかりを考え、生きていくことに絶望を感じる日々を過ごしていた。
そんなとき、あの女の体に新しい命が宿った。相手の男も家に住むようになり、あの女は献身的に相手の男に尽くした。その反面、私に対しての虐待はエスカレートしていった。
食事は1日1回あるかないか…、冬の寒い時期でも半そで1枚で外に出された。泣くと近所の人に気づかれて面倒なことになるからと、泣くことも許されなかった。もし泣いたら、その後もっと恐ろしい仕打ちが待っていることも学んだ。心が寒かった。誰かにすがる心も…、もうすでになくなっていた。できればこのままこの世からいなくなりたいと思った。
でもできなかった…。
そうこう思っているうちに弟が生まれた。弟は望まれて生まれてきた。俺が持っていないものを全部持っている。両親のあまりの可愛がりように私は小さいながらに考えた。弟がいなくなったら、代わりに可愛がってもらえるんだろうか、愛されるのだろうか…。
ある日、父が仕事に行き、母が食事の支度をしている隙を見て、私は弟の顔にバスタオルをかけた。
そう、殺してやろうと思ったのだ。
でもすぐに気づかれた。私は自分を生かすために嘘をついた。
そんなことやっていないと…。
でも小さな子供のつく嘘なんて見抜かれないわけはなかった。私の話を聞いてくれる大人は、もうここには誰一人いなかった。私はこの世から見放された。そのときから…、いやそれ以前から私の存在する理由なんて、この家には、この世にはなかったのかもしれない…。
私はこの時ある決断をする。




