大宙彗(エデン)~天空の世界~
ラルスが自分の過去と向き合っている間、仲間たちはそれぞれの術や魔法を教え合ったり、自分の技の精度を上げたりと余念がなかった。
「ジルヴェスターの石の反応を見分けることはできないのか?」エドヴァルドがログに尋ねる。
「石の反応は見れるけど、どれが支人の石かどうかまではわからない。でも、12支人達がすでに破壊神の元に集まっているなら、僕の下僕たちは、石がたくさん集まっている場所を特定できるはずだけど…、そんな場所ないみたいだから、地上に奴らはいないんじゃないかと思う。」ログはひときわ甘いお菓子を頬張りながら答える。
「地上じゃないとすればどこにいるの?」負けじとリディアもお菓子を頬張りながら聞く。
「だとすると…エデンとか?」答えながら、しまいにはお菓子の入ったバスケットを抱え込むログ。それを奪って元の場所に戻しながら、エドヴァルドが聞く。
「エデン?」
「大宙彗、つまりは天にある世界の事だよ。もともと神遣士もそこにいたんだ。でも、今は莉羽もここにいるし、大宙彗がどうなっているかは誰も知らない。」ログは口をとがらせながら答える。
「そんな場所があるんだ?初めて聞いた。」私が言うと、父が、
「伝えていなかったね。エデンの事を…。そこはもともと神遣士、眞守り人、12使徒がいた場所で、そこから世界を見守っていたんだ。でも先日のメルゼブルクの戦いの後、莉奈を連れて行ったがあそこには何もなかった。もともとあった神殿も崩れ、草木も川や泉の水も枯れ果てて…、全てなくなっていたんだ。だからそこの情報は必要ないかと思っていたんだが…。」
「そうなのね…。私の記憶からすっかり抜けていたけど、私はそこに住んでいて、そこを拠点に世界をまわっていたのよね…。なぜ今まで思い出せなかったのかしら…。」不安そうに話す母。
「俺もです。ずっと莉月さんとエデンにいたはずなのに…。」凱が自分の記憶をたどる。
「ねぇ、それって誰かがあえて2人の記憶を抜き取ったって可能性はない?だとしたら、思い出されちゃ困る何かがあるとか…。」私が言うと、
「そうかもしれない。エデンの存在を思い出されて、行かれると都合が悪い何かが…。怪しいな。」父が続く。
「一度行く価値はありそうだね。」アーロは行く気満々で言う。
「もしかして、そこが破壊神って奴の本拠地なんじゃねえの?だから、来られるとまずいとか…なーんてな!」玄人が冗談で言った言葉にみんなが、
「それだ!きっとそれだよ!おじさんは、なんで莉奈をそこに連れて行ったの?もしそこがアジトなら納得だよね?」リディアが目を輝かせて言う。
「こら、リディア。おじさんじゃないよ。響夜さんでしょ。」アーロが叱ると父が、
「アーロ、いいんだよ。おじさんはおじさんだから。ははははは。」
「でも私はおばさんって言われるのはいやよ。」母が真剣な顔で言うと、父が、
「そうだね、莉月さんはおばさんじゃない。莉月さんって呼んでね、リディア。」とにんまり言うと、リディアは悪びれた様子もなく、
「うん、おじさん!」と元気いっぱい答える。それには仲間たちも思わず微笑んでしまった。
「だから…、もうリディアは~。」そう言って呆れているアーロの姿は以前では考えられない、頼りがいのあるお兄ちゃんになったと感じる一幕であった。




