【第8夜①~異能の国ファータ~】
私はあのまま眠ってしまったようだ。また新たな夢の中にいる。
ここは様々な『異能力』を持つ人々が暮らす星、『ファータ』の王宮内にある王女の部屋で、私は目覚める。シュバリエ、メルゼブルク同様、私は夢の中で、この星の住人として生まれ育っているので、何の違和感も感じない。
ただ、長い事、この世界の夢を見ていなかったので、『久々にこの星に来たなぁ』という感覚だけ。と同時に、今の今まで泣いていたような気がする事に疑問を抱いたが、それは現実で凱との恋の終わりを迎えたばかりだからだろう…と、妙に納得する自分がいる。しかし思い出すと、また涙が流れ出てしまうのは、それはそれで仕方のない事だと自らを納得させる。そして涙を拭こうと手を上げると、肩に痛みが走る。その瞬間、はっと気づく。明らかにおかしい…。
【夢の中で負った落馬による怪我が現実でも残っている事。
夢で怪我した場所を凱が知っている事。
別世界の夢でも同じ場所を怪我していること。
そして凱に言われた言葉。
『俺を信じろって何回も言っただろう』
その言葉は現実で言われたことは1回だけ。言われたのは全部夢の中】
『これって、まるで同じ夢を共有しているみたいじゃない?凱は現実で、いつでもどんな時でも守ってくれた。守ってくれなかったことなんて一度もない。『守れなくてごめん』で考えられるのは夢の中だけじゃない?絶対におかしい。夢も現実?だとしたら、この世界も現実なの?意味が分からない…。鍵を握っているのは、全てを知っている?かもしれない凱。でもなぜ凱が…?』
頭は混乱の渦中にあるが、その疑惑と、
『凱にはしばらく会いたくない』
ということだけがはっきりしている。でもここまでおかしな事態を前に、ずっとこのままというわけにいかない。
『気持ちの整理がついたらこの件を問いたださないと』と考えているところに、
「姫。姫。起きてください。」と侍女のヴァランティーヌが部屋のカーテンを開けにやって来る。
いろんなことを考えすぎてすっかり忘れていたけど…、このファータにおいて、私はこの国の王女なのだ。時期王妃になる予定の私は、並外れた能力を持っているらしい。
この星では、全ての民が、皆それぞれ何かしらの能力を持っていて、殊に王族は桁違いの力を持っている。能力とは魔法に近い力ではあるが、その力の根底にあるものは、神羅万象の精霊との契約で成り立っている。この星のほとんどの人が、精霊との契約は一つしか結べないのだが、能力が高いと多くの精霊と契約を結ぶことが出来る。父である国王の話によれば、現在数百の精霊との契約を済ましている私の潜在能力として、数千、いや数万の精霊と契約を結ぶ力があるとの事だ。
そういうわけで、
『姫は、未だ誰も会得したことのない未知の能力、そして桁外れの力を持って生まれたのです』
と、ヴァランティーヌに耳にタコができるほど聞かされて育った。しかし、その力の解放には、いまだ至っていない。国王をはじめ、多くの者が私の能力の目覚めを今か今かと待っているのは、いくら鈍感な私でも、ひしひしと感じているところだった…。
そんなことを考えていると、
「莉羽様。本日は婚約者であらせられるエルフィー皇子がお見えになる日ですが…。」ヴァランティーヌの口から度肝を抜くような言葉が発せられる。
「え?」心臓が口から飛び出そうになる私。
「お忘れですか?」
『いやいや、しばらくここの夢を見ていないかったから…。その間にいろいろ進んではいるでしょうけど、まさか結婚って…。聞いてませんが…。』
と、心の中で突っ込みを入れながらも、話は合わせないと、という意識が働く。
「そうでしたね…。お相手の方はどこの国のお方でしたっけ?」顔を引きつらせながら尋ねる私に、
「もう、姫さまったら…、先ほど申し上げたではないですか…。全く、ご自分のご結婚のことですのに…、まるで他人事のよう…。エルフィー皇子です!今日は、いつも以上に美しくなりますよう、念入りに仕上げますわね。」と、けた外れに気合十分なヴァランティーヌ。その気迫に思わず『怖っ』と恐怖を感じる私。
「しかしほんとに…、莉羽様がご結婚される日が来るなんて、小さいころからお仕えしている私としましては、この上なく嬉しく思います。莉羽様は幼少期から…、いや…今もですけど…、お転婆で、男勝りで、能力よりも腕力のほうが強いと言われるほどの剛腕の持ち主でしたからね…。あっ、今も…。この際全部暴露しますが、私は莉羽様をもらってくれるような、そんなもの好きなお方が現れるのかと、ここ数年気をもんでおりました。本当に、本当によかったです。」と私を豪快にディスりながらも号泣しつつ、髪の毛のセットを手ばやに済ませる。その姿に、さすが私の侍女歴12年!と心の中で称賛しながら、
「ヴァランティーヌ…、私のためにありがとう。あなたがそんなに喜んでくれるなんて、とても嬉しいわ。もうこの際だから、あなたの暴露も毒舌も…、途中でどうしてくれようと思っていたけれど…、全部許すわね。でも、今もって、何回も訂正するのはやめてね!」とにこっと笑っていうと、私の言葉を聞いているのか、いないのか、
「そうですよ、本当にもらってくれる方がまた、お美しい…。本当に羨ましい限りです」と話を逸らす。
「ねえ、それで…、すごく聞きにくいんだけど…、お相手の方って…。今、あなた、美しいって言ったわよね?どんなお方なの?」と恐る恐る聞くと、突然顔を真っ赤にして、
「何をおっしゃってるんですか~?莉羽様には、本当に、本当にもったいない、あのように素晴らしいお方をお忘れになるなんて!私からは何も申し上げません。ご自分の目でお確かめください!あと、今日の莉羽様、私の腕がいつも以上に光りまして…、最高に美しくあらせられます!こちらもご自分の目でお確かめください!!!」と怒って行ってしまった。私は1人残されて、
「ヴァランティーヌ…。」とべそをかいていると、ドアを開け、顔だけ出したヴァランティーヌが、
「お時間ですよ…。」と変わらず不機嫌そうに声をかける。
「待って~、ヴァランティーヌ。」と言ってそそくさと部屋を出る。




