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1枚の紙~ラルスを奮い立たせるもの~

「ラルス、あんたの過去はエルフリーデから聞いた。それで聞きたいんだが、あんたは自分の犯した罪を償いたいんじゃないのか?厳しいことを言うが、大の大人がいつまでもめそめそして…、それで何か変わるのか?あんたの罪は軽くなるのか?なあ、おっさん。

 俺はそう思わない。あんたがここで前に進まなかったら、あんたの作った兵器で死んだ、たくさんのナータンの民はそれこそ浮かばれない。この国を救うことが、ナータンを死の星にしたあんたのすべき贖罪じゃないのか?」ラルスは凱の言葉に顔を上げることが出来ない。


 沈黙が部屋の空気をより重くする。ラルスは拳を握りしめ、不甲斐ない自分に対する悔しさで自分の太ももをその拳で何度も何度も叩きつける。


「そう、そうなんだ。それは分かっている。分かってるんだ…、でも…まさか、自分があんな史上最悪な兵器を作ってしまったなんて…。はじめ、自分はその化学兵器対策の装置の開発をしたことだけを思い出した…。たとえそれが、国を戦争へと導いた、レイの首脳陣の命を救う装置だったとしても、ナータンを一瞬で死の星に変える化学兵器の開発に比べたら、自分の開発したものはまだましだと考えていた…。でも、記憶を全て思い出してしまったんだ…。自分がその殺戮兵器を開発した張本人だっていう事を…。ああ…。」そう言って大粒の涙を流し始める。


しばらくラルスの様子を見ていた凱だったが、


「ああ…、じゃないだろ!おっさん。ここであんたが嘆いていたって何にも生まれないんだよ…。」凱は次第にヒートアップしていく。


 それを一緒に聞いているエルフリーデの頬にも涙がこぼれおち、彼女は太ももを打ち付けるラルスの手を抑える。ラルスは傍に立つエルフリーデを見上げる。エルフリーデは自分を見上げる、涙でくしゃくしゃの美しき男の頭を自分の方に優しく抱き寄せる。美しく、無様な男の本質を理解した彼女は、彼の罪を許す女神のように私には見えた。だが、ラルスの中では彼女が優しさを与えてくれる度に自分の哀れさを痛感し、同時にその優しさを以てしても、何も変えることができない自分を情けなくもあり、申し訳なくも思っていた。


 凱と私はそのラルスの様子にかける言葉が出ない。しばらく、それぞれがそれぞれの思いを抱えたまま、無言の時間を過ごす。


 その沈黙を破ったのは凱だった。


「ラルス。思い出してほしい。ナータンで化学兵器のスイッチが押されたあの日、あの時、あんたの中では唯一の希望の光があったんじゃないか?その光の為に自分がしたことを思い出してほしい。」凱は続ける。


「あんたには娘がいた。まだ幼い、その子には生きてほしいと望んだんじゃないのか?」そう言うと、


「これを見ろ!」と左手で一枚の紙をラルスの目の前に突き付け、右手でラルスの胸倉をつかみ、目を見開いて、ラルスの目をじっと見つめる。


 ラルスはその紙を見せられハッとする。それからおもむろに、凱の手をぐっとつかんでよける。そして、さっきの死人のような目を一変させたラルスは、立ち上がり、今度は凱の胸倉をつかんで睨みつける。



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