憑依~人を支配する力~
「彼の最初の印象は…、単純にデリカシーに欠ける人だなと、あまり良い印象ではありませんでした。皆さんから見えていなかったかもしれませんが、彼が自己紹介をした後、髪を結った莉羽様の襟元をじっと見つめていました。それ以外も莉羽様を見つめる目がトロンとしていて…。気味が悪いと…。
でも彼が話しをするのを見ているうちに、その姿が彼本来のものではないと直感しました…。莉羽様に対する言動と、実際の彼のオーラが著しく乖離している事に疑問を持ったのです。
その違和感が何なのか…彼とコミュニケーションをとって確認しようと…、暫く彼の言動を観察し、私なりに接してみました。そこで思い出したのです。」エルフリーデの声のボリュームが上がる。私は唾を飲み込む。
「莉羽様とエルフィーお兄様の挙式で、お兄様を連れ去ったあの闇の中に、同じオーラを持つ者がいました。」
「あの闇の中に?」凱は驚く。
「ええ、あの時、私は王の後ろに控えて、2人の宣誓の様子を見ていました。突然現れた闇の中に邪悪なオーラを感じ…、その淀みの気持ち悪さは今でもはっきり覚えています。
そのうちの1人、こちらに来た当初のラルスと全く同じオーラを持つ者がいました…。その人物は、能力としては高いものを持っているようでしたが、その発言は軽率でデリカシーのない感じで…、私は胸がムカムカしてしまったので、それ以上オーラの追究は出来ませんでしたが…、ラルスにその人が憑依していたようです。」
エルフリーデは眉間にしわを寄せて嫌悪感を露わにする。そんなエルフリーデの話に、私と凱は顔を見合わせ、笑いを我慢できず思わず吹き出す。想像とは違う私たちの反応を不思議そうに見るエルフリーデ。
「どうされたんですか?」困惑の表情で尋ねる彼女に、
「ありがとう、エルフリーデ。」私はあまりのおかしさにお腹を抱えながら答え、少し深呼吸して続ける。
「今の話で、いろいろ気になっていたことがクリアになりました。ラルスがここに来た時に言っていたんですが、彼がナータンで目覚めた時、私もナータンにいて私の力に触発されて目覚めたと…。
でもその時、私はある12支人の姿を見ていました。それに加えて、その後のメルゼブルクの戦いで、その人物が、「私は足元が見えずに…」とか、「僕の存在に気付いてない」と言っていて…、その時は何を言ってるのかわからなかったんですが…、ようやく理解しました。
ラルスに憑依していたというのは、メルゼブルクの皇子クラウディスです。私のうなじを見つめる目も…。気色悪いですが…、間違いありません。」私がここまで言うと凱が、
「そんなことがあったのか?あいつはなんでもぽろぽろ言ってくれるから、こちらとしては助かるけど…、仲間だったら面倒な存在だな…。それに、お前の事、そんな目で見ていたなんて…、確かに気色悪いけど、あいつらしいな…。」呆れた様子で話す。




