ラルス~急変~
「最初は何が何だか分からなかったけれど、ナータンの曖昧な記憶以外、自分が置かれている状況に関しては、どういう訳か頭の中に様々な情報が流れてきて…理解できた。世界で何が起きているのかもね。だから、とりあえず世界をぐるっと一周して…、自分の身の振り方を考えていたところだったんだ…。
その途中でファータ国王に遭遇して…、まずは支人とやらを見極めようと思ったけれど、会った瞬間その魂の愚劣さを感じて…、結末は君たちの知る通り。石を回収して、その足でここに来た…。今度は君と君を慕って集う者たちを見極めるために…ね。
私はね、自分の記憶を全て取り戻さない限り、適正な判断ができると思ってはいないから、ここで君たちの様子を見させてもらおうと思っている…。だから、その間、私はこの3つの石を君たちに渡す気はないよ。記憶を取り戻し、自分の行くべき道を見出した時、君側につくか、向こうに付くか伝えるから…。まあ、ここに来た最初に莉羽ちゃんには言ったと思うけど、私はこの星の行く末を見守ると言っただけ。 だから、私に過度な期待はしないで欲しい。よろしくね。
でも…、君の仲間は美しい女性が多いし、それも加味して…、ゆっくり考えてみるとするよ。」悪びれることもなく言い切る姿に怒り心頭な男性陣。
「おっ、お前~。」剣を抜こうとするハルトムート、フィン、エドヴァルド。私は呆れながら、一応ラルスをかばうようにして、彼らに言う。
「みんなの気持ちは、ほんとに、すっごく、めちゃくちゃわかる!でも大丈夫、必ずこの人、自称ナータン王?をこちらにつかせて見せるから!だから、みんな。ここは落ち着こう!」私が苦笑いして仲間に伝えてから、真顔になって、
「あなたがナータン王という事なら、私たちにはあなたが必要なの。だから…、必ずあなたをこちらに付かせてみせる!」そう断言する。その言葉と力強い私の目に、
「その自信、良いですね。」ラルスは含んだ感じでにこっと笑う。
※※※
皆の前で自信満々に断言したものの、具体的にどう彼を味方に付けるのか、策なんて何一つなかった私。我ながら勇み足だったなと自省するが、まずはラルスと自ら積極的にコミュニケーションを取り、1日でも早く記憶を取り戻してもらう事が先決だと考えていた。
しかし、あえてそうせずとも、ラルスは必要以上に私に接してくる。私に聞かずとも事足りる事を、あえて私に聞いてきたり、みんなで話しているときも、必ず私の隣に座ったり…。そんな日を数日過ごしていると、少し迷惑がっている私の姿を見て、それを察したエルフリーデがラルスの相手をするようになる。
しかし、その後からラルスの体調が急変する。日を追うごとに衰弱していくのが見て取れた。そのうち食事も皆とではなく、自室で取るようになり…、エルフリーデ以外の接点がほぼなくなっていった。
ある日ラルスの部屋にエルフリーデが行くと、体調が悪いのか青い顔をしたラルスがまだベッドに横になっていた。
「眠れなったのですか?」エルフリーデが声をかけると、ゆっくり目を開けるラルス。
「エルフリーデか…。」エルフリーデは、そっとラルスの頭に手をやり、優しくなでる。
「もう少しおやすみになられても大丈夫ですよ。私がここにいますから。」そう言ってほほ笑む。ラルスはエルフリーデの対応に戸惑いながらも、うんと頷き、再び目を閉じる。
私はエルフリーデからラルスの状況を聞こうとしていたが、時が来たら話すとだけ言われ、私でさえも状況はつかめていなかった。威勢よく現れた、敵か味方かもわからない美男子が、急激に衰弱していく事態に戸惑う仲間たちも、為す術なくエルフリーデの行動をただ見守ることしかできなかった。




