なるべくしてなる~全ては必然~
杜松も
「さっき先生に『ジークヴァルトさん、依頼です。』って言ってたけど…、先生が現代のねずみ小僧って話だったろ?俺の頭じゃ理解できない。詳しく教えろよ。」
「そう、何言ってんのかな?って、私も思った。もっと詳しく教えて、凱。」私も玄人に続く。
「ああ、そうだな…。分かりやすく言うと…、いぜっきーは、世界でトップクラスのハッカーで、悪事を働くというよりは、世の中の悪事を暴いたり、弱きものを助けたり…、つまりは勧善懲悪系のハッカーなんだ。ジークヴァルトっていう…。」
「へ?」と私。
「あのパッとしない、いぜっきーが?」玄人が続く。
「ああ、証拠もある…数年前、俺にコンタクト取ってきたんだけど…。その時何回かやり取りして…。いぜっきーがジークヴァルトだってことは確信した。」
「まじかー。」玄人が目をまん丸にして、その後言葉が出せないでいる。
「えっ?っていうか、凱も先生と同じようなことをしてるの?」私は先生よりも凱の方が気になってしまう。
「いや、俺は何もしてないから大丈夫。いろいろ侵入はしてるけど、ただ見てるだけだし、そこに入った痕跡は一切残してないから…。」どや顔の凱。私は驚きとショックのあまり不安丸出しの顔で、
「犯罪を犯してないならいいけど…、そんなことしてたんだって、なんかもう…。」その場にしゃがみ込み、
「あんまり心配させないでよ…。」そう言ってうつむいて顔を上げることが出来ない。
「莉羽…。」そう言って私を立たせようとする凱を私は睨みつけて、
「そんなこと言ったって、バレたら捕まるじゃない!そんなリスキーな事して…。笑顔で話す話じゃない!」私は立ち上がって凱の胸を叩きながら涙目で訴える。さすがに凱もこの私の反応には驚いたようだったが、
「お前の心配は分かる…。でも絶対にバレないから、大丈夫。これが今後どう活かされていくか…、理解する日がもうじき来る。だからお前は俺を信じろ。俺はお前の?」変わらずのどや顔で聞いてくる凱に、私はふてくされながら、
「バートラル…。って、もうほんとに何なのよ…。」ほっぺたを膨らませていると、急に真顔になった凱が、
「もうじきこのアースフィアの存在自体を脅かすような事件が起きる。それに対処できるのは…、伊関先生だけなんだよ。だから…、先生にはこの星の救世主になってもらわないと…。」そうボソッと呟く。
その言葉に私と玄人はさらなる衝撃を受け、呆然としてしまう。
「こうなる事は必然なんだ…。だから俺がパソコンのスキルを身に付けて、伊関先生の力を知り、その協力を得なければならなかった…。そうなるべくしてそうなってるんだ…。」凱は不安げな顔で続ける。
「だからいち早く、俺たちは仲間を見つけ出して、その有事に対抗する手段を早く…、じゃないとフィン団長の言っていた事が現実になってしまう…。」
「人が降ってくる?」私が恐る恐る聞くと、凱は無言でうなずく。
私は頭から血の気が引いていくのを感じ、凱の腕に掴まる。凱も私の様子に気付き、肩を掴んで支えてくれる。
「時間が迫っている。早くみんなの元に帰ろう…。」凱はそう言うとゆっくりと私を支えながら歩き始める。
玄人は凱の言葉の意味が分からないながらも、この先何かが起こる事に不安を感じ、それ以上茶化すことなく、無言で私たちの後をついてくるしかなかった。




